05
「俺は、お前に不良になってほしいなんて思ってねぇ。勘違いすんな」
「……っ、う」
「お前はお前のままでいいんだよ。いつものお前が一番好きだから」
「せんぱい…、ごめ、なさい…っ」
「…泣くなよ」
八尋をこんなふうに追い詰めたのは俺だと思うと、本当に申し訳なかった。
だけどここまで、こんな俺を想ってくれていることが、嬉しくてたまらなかった。
きつく抱きしめると、八尋は俺の背中に腕を回した。
頭を撫でて、金髪に償いを込めてキスを落とす。
それに気付いたのか、八尋がそっと泣き顔を上げた。
「八尋」
「はい…」
「好き」
「……っ」
「今までごめん。しかも、こんなことまでさせて」
「はい、」
「…俺の彼女になって」
最後の一言を聞くと、八尋は俺の胸にすぐに突っ伏してまた泣いた。
八尋を守ることと、自分が爽神会の頭を務めること。
今、天秤にかけてみたら、八尋のほうが断然重かった。
どうして俺は今まで、八尋を幸せにするためにチームから降りようと思わなかったんだろうか。
きっと、八尋を幸せにするということに、本気になれていなかったからだと思う。
好きだなんて言っては突き離して、中途半端な優しさを見せつけて、ただ八尋を保護した気になっていた。
でも八尋に、こんなふうに本気を見せられて
気持ちは大きく揺らいだ。
こんなに好きになれる女も、こんなに俺のことを好きだと言ってくれる女も
この先もういないだろう。
チームなんか八尋の存在のでかさに比べたら、ノミくらいの大きさだ。
「八尋が思ってる以上に俺、お前のこと好きだし」
「はい…」
「これからも、八尋のこと守るし」
「はい…」
「お前はお前のままで、俺のことだけ好きでいたら、それだけでいいから」
泣きながら「はい」としか言わない八尋に苦笑して、そのまま頭を撫で続けた。
きっと八尋の渾身のメイクは落ちてしまっているんだろう。
多分この先いろいろあるけど。
とりあえずは、八尋の髪を、黒に戻すことからはじめようか。
END
⇒
[ 50/51 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]