03
やはり、あれ以来八尋は俺の前に姿を現すことはなかった。
屋上へも来ない。3年の廊下にだって近寄っていないようだ。二階堂のことがあるからかもしれないけど、それよりもあいつは俺を避けているに違いないと思っていた。
こうなることを望んで、俺は行動に出たけど。
現実がついてくると予想以上に辛いことがわかって、柄にもなく派手にへこんだ。
チームの仲間にも顔色を窺われているようで、それが嫌で集まりにも暴走にもしばらくは出なかった。
時間がどうにかしてくれる。そう思っていたけど。
八尋との思い出は自分の中に思った以上にへばりついていて、なかなか離れてくれなかった。
今日も相変わらず、屋上でぼんやりと空を眺める。
たまに煙草を吸いながら、昇って消える煙に自分を重ねる。
不良と呼ばれるまでに堕落した自分を、こんなに後悔して嫌いになったのは初めてだ。
「……安藤先輩」
ふと、少し懐かしい声がした。
風に乗るように、俺の背後から。
大好きで、本当はずっと傍にいてほしい女の声。
何かを考えたりすることもなく、半ば反射的に声がするほうを振り向く。
「……………っ」
「びっくりさせちゃいましたか…?」
「…なにしてんの、お前」
「しつこくごめんなさい。でも私、先輩のこと、諦められないです」
振り向いた先に立っていたのは、紛れもなく八尋だったけど。
俺の知っている八尋とは、別人だった。
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