01
side 竜輝
八尋を暴走に連れて行ったのは、俺を嫌いになってほしかったからだけじゃなかった。
ケリをつけたかったのだ。自分の気持ちに。
八尋は絶対に、俺たちみたいな集団に巻きこんでいい相手じゃない。
それをわかっていながら、どんどんあいつを好きになる自分が嫌だった。
こんな俺のことをあいつに「いい人」だと思い込ませているのも嫌だった。
俺の醜態を晒して、嫌いだと罵ってもらいたかった。
八尋に幻滅されれば、俺の諦めもつくと思った。
でも八尋は、それでも俺を好きだと泣いて。
そして俺には、そんな彼女を最後まで突き離し切る度胸がなかった。
最初はなにも考えていなかった。
ただ、俺のテリトリー内で繰り広げられていた醜い弱い者いじめが嫌で、その標的を救ってやりたかっただけだった。
でも八尋は、俺が目を離すとすぐに誰かにイジメを受ける。そしてひとりでそれを抱え込む。
誰かが守ってやらないと、きっと壊れてしまうと思ったのだ。
俺とは住む世界の違う女だったということに気付いた時には、もうどうしようもないくらいにあいつを好きになっていた。
いや。好きだからこそ、傍に置いておけないと思うようになった。
それなのに八尋は、こんな俺を好きだと言ってくれた。
俺がどんな奴で、どんなことを裏でやっているのかも、何も知らないような顔をして。
俺のことを、まるでスーパーマンか何かと勘違いしているような顔をして。
違う。
俺は、人間の底辺なんだ。
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