05
先輩の言っていることが、瞬間的には理解できなくて。解釈にかなりの時間がかかった。
そのうちに先輩は、さっきの倍のスピードで自転車を押して歩き始めた。
「…っ、先輩!待って、」
「もう帰るぞ」
綺麗にセットされたツートーンの髪は、真っ暗闇で黒にしか見えない。先輩の顔だって、色までわからない。
でもきっと、先輩の顔や耳は赤くなっているんじゃないか、なんて冷静に考えている自分がいた。
先輩の隣に並ぶ。
先輩の言ってくれたことが理解できた今、いろいろと聞きたいことがあった。
わからないこともたくさんあった。
だけど私が何か言うよりも前に、先輩の声が私の上から降って来た。
「俺が突き離したところで八尋は泣いてばっかりだから、もう言うけど」
「…はい」
「俺、気付いたらお前が好きだった」
ドクリと、心臓と一緒に視界まで揺れる。
先輩の口から、初めて聞いた「好き」
どう反応していいのかわからない。
先輩の気持ちに気付かなかったなんて、気付かずにわんわん泣いてひとりで狼狽して、本当に正真正銘のバカだ、私。
でも、
「八尋が他の男と幸せになるのは嫌だけど、俺みたいな人間にお前を巻き込むのはもっと嫌なんだよ」
「……」
「わかってくれ。…気持ちに応えてやれなくて、ほんと、悪いと思ってる」
先輩は再び立ち止ると、今度は私に深々と頭を下げた。
そんなふうに謝ってほしいなんて、私はこれっぽっちも思っていないのに。
予想をはるかに超えた先輩の言動に、私は言葉を失って。
ただ、立ち尽くしていた。
2011/05/01
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