01
夜中の12時。
こっそり家を抜け出して、玄関先で先輩を待つ。しばらくすると道の向こうから、ひとつ光が見えた。
だんだん大きく丸くなって近付いてきたそれは、自転車のライトだった。
「待った?」
「や…、全く」
「後ろ、乗れ」
安藤先輩が顎で後ろをしゃくる。
街灯に薄く照らされた先輩は、学校ではいつも無造作におろしている髪をしっかり立てていた。
初めて見る先輩の姿に、また胸が音をたてはじめる。もう、いい加減うるさい。
「時間ないから早く乗れよ」
先輩が眉間を寄せたのがわかったから、慌てて後ろに跨った。
私が座るやいなや、彼はペダルを踏んだ。だけど私がバランスを崩して「きゃあ」と声を上げたのに気付いたらしく、少し進んだ先で自転車を止めた。
「ちゃんと掴まっとけよ」
かけられた言葉はロマンチックでもなんでもなくて、私の腕をギュッと掴んで自分に回してくれるなんてこともなくて、先輩の表情は優しくもなんともなかったけれど。
私はその一言に、何故だかさらにドキドキして、魔法にかけられたみたいにもっと先輩を好きになった。
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