03
先輩、
どこ行くんですか。
その声も出せないくらいに、呆然と先輩を見つめていた。
「先輩…」
「ごめん八尋」
「……っ」
「でもお前のことは、嫌いじゃない」
その時、先輩が私の頭にてのひらを添えた。
はじめて先輩に優しく触れてもらったのに。
それは暗に、諦めて、と言われているような気がして。一度引っこんだ涙が再び溢れ出す。
嫌いじゃない、なんて。
優しくしないで。
「じゃあ、俺帰るわ」
「…っ」
「何かあったら絶対言えよ」
「……、」
「約束な」
とりあえず、ぐしゅぐしゅになった顔を見られないように伏せたまま、首を縦に振る。
先輩は安心したのか、大きく息をついて。
何も言わずにその場を去った。
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