05




「先輩、その人はっ…「生徒会副会長って、どいつ?」




関係ないんです、と言うよりも前に。

先輩はその人に小声でそう聞いた。

その人は恐々と教室の奥を指さす。


そこには、真っ青な顔をして机から動けなくなっていた副会長がいた。




「あいつか」




先輩は彼から手をはずすと、ずんずんと副会長のもとへ進んだ。

隙を見つけて逃げておけばよかったのに。

副会長は近づいてくる安藤先輩に、声も発せない様子で口をぱくぱくと動かしている。


副会長のメガネの奥の瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。




「あいつに何した」

「……あ、」

「何したんだって聞いてんだよ」

「……な、なに、も」

「殺す」




低く短く言葉を発したあと、先輩は隣の机に置いてあったハサミを掴んで振り上げた。

キャーーーという悲鳴が聞こえた直後に、ドスンとそれは振り下ろされた。






「あいつに手ぇ出したら、今度はてめぇの面に突き刺すぞ」






ハサミは、副会長の机に突き刺さっていた。

垂直に立ったハサミは、少ししてパタンと倒れた。


固まった副会長。次の瞬間に、女子としてありえないくらいの品の無い声をあげて泣き始めた。



私は本当に安藤先輩がハサミで副会長を刺してしまうんじゃないかとハラハラしていたから、こんな状況だけど、内心ホッとしていた。

私のせいで先輩が犯罪者になるのは嫌だ。




「他の奴も、こいついじめた奴は俺に喧嘩売ったと思え」




安藤先輩の言葉に、教室が再び静まり返る。

副会長の泣き声を除いて、だけど。




「行くぞ八尋」

「あっ…、はい!」




そのまま出ていく安藤先輩に走ってついて行った。

ここまでしてほしいとは思ってなかったけれど、本当はちょっと、ざまあみろとか思ったりして。





2011/03/31






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