04
「八尋?」
先輩は、私の期待を裏切らず、屋上にいた。
そして赤土でドロドロの私の姿を見て、さすがにぎょっとしていた。
彼は、恐る恐る私の名前を口にして。
だけど私に走って近づいた。
先輩の顔を見たら……先輩の顔はこんなに怖いのに……すごくホッとして、その場に膝をついて崩れ落ちてしまった。
体中の力が抜ける。涙も止められなかった。
「…せんぱ、いっ」
「どうした」
「助けて、」
私の目の前で、しゃがんで顔を覗きこんでくれた先輩の腕を掴む。
先輩は嫌がることもせず、私を受け止めてくれた。
安心する。
大きいからだ。強い眼光。ツートーンの髪。
私を嫌いだと言わない口。
「…誰にやられた」
「ひ、っ、う、さん、ね、の…」
「落ち着け。ゆっくり言え」
「さん、さんねんせいの…っ、生徒会、の、副会長!」
言ったら殺すって言われたけど、安藤先輩はきっと私を守ってくれる。
だから私は、彼女のことを何のためらいもなく口にした。
先輩は私の髪についた土を少し乱暴に払った後、私の腕を掴んで立ちあがらせた。
「俺、そいつわかんねぇ。ついて来い」
「…っ、え!」
まだおぼつかない足をひきずり、屋上を後にする。
先輩の足は躊躇せずに、下校前の掃除でわいわいと賑わっている3年生の教室の前にやってきた。
「おい。生徒会副会長って何組?」
「たつきじゃん!あ、その子八尋さんー?」
「うっせぇ。何組か言え」
「確か4組だったと思うよ」
安藤先輩が話しかけたのは、あの赤紫の髪をした先輩だった。
彼女は私をじろじろ見た後、なぜか頭を撫でてにこにこしていた。謎。
私はそのまま安藤先輩に、3年4組の教室の中まで引きずられた。
廊下から教室から、たくさんのギャラリーたちが殺到している。
その中には、二階堂先輩もいた。
彼はそうとう驚いた様子で、私と安藤先輩を見比べる。
この究極に居づらい状況の中でも、先輩は平気そうな顔だった。
…いや、怒りからか鬼みたいな顔をしていた。
「こいつやったの誰」
先輩の声が、3年4組の教室内に響く。
騒ぎにざわついていた教室が、シン、と静かになる。
私は俯いて顔を上げられずにいた。
「誰がやったんだって聞いてんだろーが!」
ふ、と私の腕から先輩のてのひらのぬくさが消える。
見上げると先輩は私の手を離して、近くに立っていた何の関係もない男子の胸倉を掴んでた。
[ 20/51 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]