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安藤先輩への気持ちにケリをつけるのは無理だと悟った私は、この恋心を静かに温めていく決意をした。
別に、誰かを好きになるのは自由で。本来制限されるものではないと思うから。
「…好きです」
「………」
「付き合っては、もらえないのかな」
好きになるのは自由。思い焦がれるのも自由。
そう思うけど、この人は少ししつこすぎると思う。
ここまでの回数になると、もはや新手のイジメではないかと思えてきた。
「二階堂先輩…。何度もそう言っていただけて、すごく嬉しいんですけど」
「……やっぱり、駄目だよね」
「ダメというか…私、好きな人ができたんです」
「え、そうなの…?」
今まで告白を断るとき、好きな人が出来たと言う言葉を使ったことはなかった。
だからなのか、二階堂先輩は鳩が豆鉄砲を食らったように、呆気にとられた顔をして少しの間動かなかった。
「だから……ごめんなさい」
頭をがばりと下げる。放課後の校舎の裏。
視界には、土と自分のうわばきと先輩のうわばき。
先輩のそれが、ジリ、と動いた。
「顔あげて」
「……、」
「何度も困らせて、ごめんね。本気で誰かを好きになったのは、八尋さんが初めてで。どうしても諦めきれなかったんだ」
「………」
「でも好きな人が出来たなら、ね。僕は八尋さんの恋を応援するよ」
「…ごめんなさい」
「謝らないで。…でも、八尋さんの好きになる人なんて、すごく素敵な人なんだろうね」
二階堂先輩はスマートに微笑んで、私の頭にてのひらを添えた。
温かいてのひらが、私の髪をするする滑って。
彼はそれを何度か繰り返した後「じゃあ、さよなら」と踵を返した。
きっと、あんなに私を好きでいてくれる人と付き合ったら、本当に幸せなんだと思う。
どうしてあんな人を好きになれなかったのか、甚だ疑問だ。
代わりに好きになった相手は、不良グループのトップで。
おまけに私の一目惚れで。
…でも、すごく素敵な人だと言うことに、間違いないと確信はしてる。
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