05
先輩は手すりの下にあぐらをかいて座った。
そして立ち尽くす私に向かって「お前ずっと立っとくわけ?」と声をかけてくれた。
…が。
逆に、ずうずうしく隣に座っていいわけ?
私は先輩に遠慮して、少し離れた場所に移動して腰を下ろした。
屋上は清掃が行きとどいていないからか、すごく埃っぽいしコンクリートは灰色に汚れている。
そこへ座るのは本当は気がひけたけど、そんなことでモタモタしていたら、先輩から二度と来るなと言われそうだ。
私の挙動不審な一部始終を、先輩はじっと眺めていた。
「お前さぁ、なんて名前だっけ」
「…八尋、穂奈美です」
「あー、そか。八尋か」
「はい」
「有名人だよ。俺らの学年でも」
先輩が少し意地悪く微笑む。
全然嬉しくないけれど、私はとりあえず合わせて愛想笑い。
有名って、どういう意味で有名なのだろうか。
二階堂先輩に告られまくって、全部振った女?
二階堂先輩のファンに袋叩きに遭ってる女?
まぁ多分、どちらもだろう。
「大変だな」
「…はい」
「まぁ、何かあったら言え」
「え…?誰に、ですか」
先輩は私との距離を縮めるでも離すでもなく、少し大きめの声を出して話しかけてくれる。
私の言葉に先輩の細めの眉がぴくりと動いた。
そして少し呆れたような顔をして、私を睨む。…いや、普段の先輩の目つきから考えると、ただ見ただけなのかもしれないけれど。
「俺以外に誰がいるんだよ」
先輩の声が青空に吸い込まれた。
思わず呼吸も忘れるほど。心臓がドクドクと波打って体の中で揺れた。
私にはかなわないひと。
絶対に手に負えないひと。
まだ出会ったばかりの知らないひと。
だけどどうしよう。
こんなにも、好きで。胸が苦しい。
「気が向いた日は、助けてやるから」
先輩の意地悪な声が鼓膜をかすめる。
きっと先輩は、気が向かなくたって助けてくれるのだろう。
太陽の光に、ツートーンカラーの髪がキラキラ光った。
2011/03/31
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