02
二階堂先輩には、本当に悪いことをしたと思う。
もう今後、告白されることもないんだろう。
そう考えると少し寂しくなるから、私はつくづく自分勝手だ。
「八尋さん」
私も帰ろうと足を一歩踏み出したとき、後方から声が聞こえた。
知らない、女声。
振り向くとそこには、見覚えのある人が立っていた。
校則違反をしていない色の髪を、きちんとひとつに結って、真面目そうなメガネをかけた人。
この人は確か、生徒会副会長だ。
「……なんでしょう」
「今、二階堂くんと会ってたよね」
「はい…」
「また告白されたんだ?」
…なに。
この人も、私をリンチするつもりなの?
こんなに生真面目そうな人なのに?
副会長の問いかけに言葉を失っていたら、彼女は側に積んであったパイロンを足で蹴散らした。
びくりと体がこわばる。そんな私を見て、彼女は声高々に笑った。
「二階堂くん、なんでこんな不細工な子がいいんだろ?」
「………、」
「目もちっちゃいし、鼻も低いし、本当にブス。びっくりする」
彼女が、お前に言われたくないわ!と、いうような顔面であることはさて置き…。
私にゆっくりと近づいてきた副会長は、じとじとと私に罵声を浴びせてきた。
このくらいの悪口なら、耐えられる。別にどうってことない。
だけど相手を怒らせないように、一応怯えたふりをする。
いじめられて身に付けた自分を守るための術。
やっぱり副会長だもん。さすがに手は出さないか、
そう思った次の瞬間。
ガコン、と鈍い音がして頭の中が真っ白になった。
薄ら目を開けると、目の前には地面の赤土。
副会長が、感情が抑えきれなかったのか、私の頬骨をグーで殴ったのだ。
きっと人を殴ったことなんてないのだろう。
力任せも度を超えた力で、私は地面に叩きつけられた。
「…っ!」
副会長も自分のしたことに驚いているのか、何も言葉を発さない。
頭が痛くて顔を上げられないから、その表情までは見えないけれど。
きっと顔面蒼白になっているに違いなかった。
必死で土を掴んで立ちあがろうと試みる。
だけど、どうしても力が入らない。頬がジンジンと疼く。
「あの…っ、先輩、」
「………」
「せめて、立ち上がる、の…手伝ってもらえないで、しょうか…」
「…………うっせーんだよ!」
先輩は怯えきってしまったような震える声でそう叫ぶと、私の左の手の甲をうわばきで踏みつけた。
土にてのひらが擦れる感覚が、痛くてたまらなくて。
だけど殴られた頬のほうが痛かった。骨、大丈夫かな…
「あたしがやったって、誰にも言わないでよ!」
「…………、」
「言ったら…っ、言ったら殺すよ!」
それ、捨て台詞のつもりなんだろうか。
震えて裏返った声じゃ、なんの説得力もない。
でもこの人は、怒りにまかせて本当に人をあやめてしまいそうだ。
殴られて、いろんな痛みがマヒしてしまうくらいにジンジンしているのに、私の脳内は少し冷静だった。
副会長が、パタパタと走って去っていく。
…どうしよう。ひとりぼっち。
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