02
次の日の休み時間。
私があの日、先輩にいじめを受けたのと同じ時刻。
私は、初めて安藤先輩と出逢った屋上へ行った。
屋上へは、ほとんど人は行かない。
だからあの場所では、いじめだとかさぼりだとかが横行する。
私もあの日までは、屋上は大嫌いな場所だった。
でも今私は、屋上をまるで聖地のように思っていて。
こんなにも、安藤先輩のことを追い掛けている自分をバカみたいだと感じる。
だって出会ったばかりの人なのに。一目惚れなんていう、安い感情なのに。
きっと、私は安藤先輩をヒーローだと思いこんでしまっているのだ。
相手にされないってわかってるけど。
会えないかもしれないって思ってるけど。
でも、止められない。
錆びたドアを開けると、そこには雲ひとつない青が広がっていた。
もし安藤先輩に会えなかったとしても、この爽やかな空気を吸えたことは収穫かもしれない。
静かにドアを閉めて、誰か私に危害を与えるような人がいないかを確認した。
給水塔の影に隠れて、きょろきょろと辺りを見回した。
屋上はシンとしていて、人の気配はない。
…よかった。
いや、悪かったのかな?
人の気配がないということは、安藤先輩もいないということだ。
「やっぱり私、運が悪いなー…」
屋上のヘリまで歩き、てすりに体を預けたら、その途端にチャイムが鳴った。
走ってもきっと、授業には間に合わない。
私ひとり居ても居なくても、きっと生徒はおろか先生すら気付かないかもしれない。
保健室に行っていたらチャイムに気付かなかったということにでもしておこうかな。
「さぼっちゃえー」
空に向かってそう発したら、なんだかすごく気持ちが良かった。
安藤先輩には会えなかったけど、でもいいや。衝動だけで来てしまったから、会ってどうしようなんて決めていなかったし。
会えなくてよかったのかも。
「…あ。」
さぼりを決め込んで空を眺めているところに、後ろから声がした。
足をぶらぶらさせていた私は、その声にびくりと固まる。
…誰?
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