05
そこに立っていたのは、もう言わなくてもわかると思うけど。
「あの、清香、」
「………」
「おい!」
出くわしてしまった清香。
彼女はケーキを受け取らずに、店を出た。
即座に席を立つ。
「小泉さんすみません!また連絡しますから!」
「うん。ふぁいとー」
俺が店を出ようとすると、店員がケーキの箱を持っておろおろとしていたから、彼女の知り合いだと言いその箱を受け取って金を払った。
「清香!」
「………っ」
「…これ」
「いらない…」
清香は、2人でケーキを食べた公園で、ベンチに座って泣いていた。
その横に座って、ケーキの箱を差し出すが、清香は首を横に振っていらないと意思表示した。
「泣くなよ」
「……っ、」
「小泉さんの買い物付き合っただけだから」
「違う、っ」
「違わねぇよ」
清香は俺に背を向ける。
その肩に触れる。はねのけられたりはしなかったけど、こちらは向いてくれなかった。
だから無理矢理、肩を引っ張る。
「痛い、よぉ…」
「泣くな」
「ほかに言うことないの…?」
「悪い」
「許さないもん…っ」
こちらを向いた清香。
俺の苦手な涙をたくさん流して。
こんなにたくさんの涙を見たのは初めてだった。顔を全部ぐちゃぐちゃにして、鼻まで真っ赤にしている。
苦しそうに歯を食いしばる姿には、さすがに息をのんだ。
もっときちんと謝ればよかった。
俺が思った以上に、清香は胸を痛めていたらしい。
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