06
もう一度、本当に買い物に付き合っただけだと伝えた。瀬戸の誕生日プレゼントを買いに行っただけだということも。
だけど清香は、全く納得しない様子で、ずっと違う違うと繰り返す。
そして、冒頭の怒声。
清香は、言ってくれたらよかったのにと、何度も言っては泣いた。
俺は、言わないことが優しさだと思ったんだ。
それが裏目に出た。確かに、黙っていたくせに見つかってしまったのは完全に俺が悪い。
「ごめん清香」
「…っ、」
「本当にごめん」
こんなふうに人に謝ったのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
清香にこれ以上泣いてほしくなくて、必死で頭を下げた。心から謝った。
できるなら抱きしめたかったけど、清香は嫌がるかもしれないと思うと手が動かなかった。
いままでの自分じゃないみたいだ。
人の気持ちを考える、なんて。
「清香」
「……、」
「俺、清香に泣かれると、どうしていいかわかんねぇから…。だから泣くな」
「…っ、ふ」
「あのー…。ぎゅってしていい?」
「…だ、め、」
清香は案外頑固らしい。
もうマジで、どうしていいかわからない。いままでの女なら確実にこの時点で別れている。
でも清香だけは、無理。
手放せない。
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