06
テレビでは、ヒロインが付き合っていた男と別れるシーンが流れていた。
惜しい別れなのか、男女とも苦渋の表情で涙を流して。
これで泣いたのか。
でもまだ開始から1時間も経ってないんだからさぁ。
「どーせまたくっつくか、新しい男つかまえてセレブになるに決まってんじゃん」
「…っ、ちょ、と、うっさいよぉ」
「誰に向かってうるさいとか言ってんだよ」
「うぅ…」
聞いちゃいねぇ。
だってよく考えてみろ。映画のタイトル【私がセレブになったわけ】だぞ。
タイトルセンスが悪すぎる。
泣き虫清香は放っておいて、俺は寝ることにした。
後で時間があったら、ホラー映画でも借りてきて見よう。
「…くん、由和くん、」
「………」
「起きない」
遠くの方で、清香の困った声がした。
でもまだ夢の中に居た俺は、その声にきちんと応えられなかった。
ゆっくりと意識を現実に向ける。
目を開けると、俺にずっと背を向けていた清香が、膝の上でこちらを向いていた。
「…案外大胆なことするな。お前」
「寝起き第一声がそれ…?」
「あぁ?」
「いや、ごめん…」
清香は、うさぎみたいに目を真っ赤に泣き腫らしていた。
頭を撫でると、猫のように嬉しそうにてのひらにすり寄る。
かわいいー…
「映画は?」
「終わった」
「どうなった?」
「社長と結婚してセレブになった」
「ふーん。つまんね」
おもしろかったよ?と言う清香に、適当に相槌。
それより俺は、腹が減った。
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