02
「あのー!」
「あぁ?」
「…あ、すみませんでしたー」
清香の大学の前で、清香を待っていた。
5限が終わったら迎えに行くっつったのに、待てど暮らせど清香は出てこない。
俺のこと待たせる女なんか、この世で清香くらいだ。
清香を待っている間に、もう何人もの女に話しかけられた。
だけど、ちょっと睨みつけるとみんな顔をひきつらせて逃げるように去って行く。
そんなに俺の目つきが怖いのか?なら面と向かってそう言ってみろこら。
「あのー…」
「あぁ?」
「うわ…。こわ」
「おせぇぞお前」
またかと思って、さっき以上に凄んで振り向くと、立っていたのは清香だった。
大学に入って、メイクを始めた清香は俺の想像を絶するほどかわいかった。
だからこんな顔で大学に行くなと、メイク道具一式をゴミ箱に捨てたことがある。
悪いことしたと思って、後で全部買い直してやったけど。
やっぱり今日も、清香はかわいかった。
「5限終わったら来るっつったろ」
「でも私の5限が終わるの、由和くんの終わる時間より20分も後だもん…」
「知らねぇよそんなもん」
「この前も言ったじゃんー」
ぐだぐだ言う清香の手を取って、歩き出す。
清香は足をもつれさせながらついてきた。
そして100メートルくらい進んだところで、俺の手から離れて派手にこけた。
「ぐず」
「ひどいよぉ…」
アスファルトにへたりこんでいる清香の前に中腰になる。
清香は縋るような目に、いっぱい涙をためていた。
痛くて泣いてんの?恥ずかしくて泣いてんの?怒って泣いてんの?
わかんねーけど、やばい。かわいい。
じっとり観察していたら、清香が俺に向かって手を伸ばしてきた。
なに?という意思表示で首をかしげると、彼女は薄く口を開く。
「立たせて」
「自分で立てば」
俺が鼻で笑うと、清香は首をもたげた。
てか、いつまで座ってるつもりだ、ここに。
「あー…もう!お前はほんと世話がやけるな」
清香のてのひらを握って体を引っ張り上げる。
その軽い体はいとも簡単に立ち上がった。
よく見ると、左のひざが擦り剥けていた。
「はいはい。痛いの痛いのとんでいけー」
「触ると余計に痛いよぉ」
「俺のせっかくの好意を無駄にする気か」
「んん。ごめん」
へにゃんと笑う顔が、やっぱり愛しくてたまらないと感じる。
また手を繋いで。
今度は速度を合わせて歩いた。
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