06
でも、放課後に嬉しいことがあった。
竹下が俺のことを昇降口で待っていてくれたのだ。
きっと柴田に手を出さなかったから、神様が褒美をくれたのだと真剣に思った。
俺に礼だけ言って帰ろうとする竹下を引きとめる。そして一緒に帰ることにした。
相変わらず、竹下は歩くスピードが遅い。でも合わせてやるのはなんだか恥ずかしくて俺はずんずん先に進んだ。
こういうところがダメなんだと思う。竹下に好きだとはっきり言ってもらえないゆえんなのだろうけど。
この性格で18年間生きてきたのだ。もういまさら変えられない。
だけどこの後の展開は、自分でも予想外のものだった。
小泉さんのことをぐだぐだ言っていた理由がわかって、それだけじゃなくて、柴田と竹下が別れた理由まではっきりしたのだ。
「私が、里垣くんのこと好きだから」
心臓が、止まるかと思った。
いや多分、一瞬止まった。
何も言えないまま気付けば結構な長さの沈黙が流れていたらしい。
竹下が、俺を好き?まじで。
ずっと望んでいたことが叶った瞬間って、嬉しいよりも先に、何も信じられなくなるのだと知る。
もしかしたら、柴田と別れてヤケになっているだけかもしれない、とか。
本当にこいつが浮気していた魔性の女だとしたら、俺をからかおうとしているのかもしれない、とか。
竹下はそんな女じゃないことなんて、3年間見続けてきた俺が一番よくわかってやってるはずなのに。
「…なんか言ってよ」
そのうちしびれを切らしたらしい竹下が、消えそうな声でそう訴えた。
ごくりと、生唾を飲む。喉が乾燥してしまって痛い。
俺も好きだよ。
3年間、ずっと好きだった。
今日から俺のもんになれよ。
「へぇー」
頭の中は甘い言葉でいっぱいだったくせに、ひねくれた俺の口から出たのはそんな冷たい、冗談めいた言葉で。
きっと、信じられないという気持ちが俺を邪魔したんだと思った。
「返事、は?」
おろおろとそう尋ねてきた竹下に、どう答えたらいいのかわからなくなって「保留」だなんて言ってしまった。
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