05
教室にぽつんと残る彼女の背中を見て、なんて健気な犬だ、と感動すらした。
だからついつい、「いいな」なんて本音が出てしまって少し焦ったけど。
のちのちそれを遠藤に話すと「犬って…お前自分がちょいちょい失礼だって気付いてる?てかホントに竹下のこと好き?」だとか言われてむかついた。俺は全く無礼なことはしていない。
教室で竹下は、俺にぐだぐだと意味不明な瀬戸の彼女の話なんかをし始めた。
しどろもどろな竹下が可愛くて仕方なくて、笑いがこみ上げる。
こういうときに笑いたくなるのも相手には失礼な行為だと遠藤が教えてくれたけど、俺は家の猫がかわいい仕草をしたときには大爆笑する。だから普通だ。遠藤が異常だ。
「柴田と別れろよ。俺のこと好きなんだろ?」
「はぁ!?なんで、な、なんでなんで…」
「違いますか?」
竹下は、違うとは言わなかった。
ただ固まって、俺の言葉にみるみる顔を真っ赤にする。
…ダメだね。
やっぱり諦めるわけにはいかない。
こんなに愛らしくて俺好みの女、他にいるわけねぇじゃん。バカか俺。
ちょうどいいところにやって来た柴田。
柴田は俺たち2人を見ただけで、あからさまにムッとした表情を見せた。
こういうところか。平野が「女くせぇ」というのは。
柴田の態度に俺もむかついて、ちょっとした意地悪のつもりで爆弾を投下してやったら、次の日にはふたりは破局していた。
教室での柴田は思った以上に女々しくて、引いた。
あいつのエセ笑顔に反吐が出そうだった。
俺に敵うと思ってんの?
ふざけんな。
「さっき柴田と仲いい奴に聞いたけど、柴田が竹下にお前なんかいらないって言ってふったらしいよ」
昼休みの屋上で、平野が言った。
その言葉に一瞬耳を疑って、次の瞬間には腹の底から怒りがぐつぐつとこみ上げてきた。
いらないだと?何様だよ。
お前がどんだけ偉いんだよ。
「まじあいつ…死なす」
「おいおい早まんなって」
「じっくり考えた結果だ。絶対ボッコボコにしてやる」
「お前の犬は、多分暴力とか嫌いだと思うけど?」
「遠藤!竹下を犬呼ばわりすんな!」
「…おまえだろ」
平野と遠藤に止められて、俺の柴田フルボッコ計画は無くなったが、俺の怒りは治まらない。
「この世で一番偉いのは俺だ!」
「…なんの話?」
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