02
自分から想いを伝えようとは思わなかったけど、竹下は絶対に自分のものにしたかった。
だからじんわりじんわり、あいつの外枠から攻めていった。
俺のことを好きになるように。
「そんな由和のやり方は間違ってると思いまーす」
――遠藤の間抜けな声が空に響く。
昼休み。
くすねた屋上庭園の鍵を使って、俺たちのグループはいつも屋上に居た。
竹下は、ものすごくかわいい。
俺の周りの誰かがあいつを好きになる可能性だって十分にある。
だから俺は、友達には「あいつは俺のもんだから手ぇ出すなよ」と忠告してあったのだ。
「なにが間違ってんだよ」
「由和のアプローチはわかりにくい」
「わかれ」
「いや、俺がわかったところで竹下がわかんねぇと意味ないじゃん」
うーん…確かに。
でも俺の中には、今のやり方以上の方法案がない。
ジュース買ってやったり。…あんまり喜んでなかったけど。
あれこれ操作して日直を一緒にやったり。…忘れて帰ったけど。
教科書借りたり。…返すの忘れたけど。
俺のこと好きなんだろ?って探りいれたり。
「その探りが一番ダメだと思うけど」
「はぁ?」
「そんなこと言われて素直にうん!っていう人いないし。それに冗談のフリがあんまりしつこいと、鬱陶しいと思うようになるかもよ」
「俺のこと鬱陶しいとか言った日には叩き潰す」
「お前好きな女のこと潰すのかよ」
遠藤がやいのやいの言ってくるおかげで、俺は自分のやり方というものに、初めて疑問を持った。
確かに、今までのやり方で竹下との仲が深まったかと言われればそうじゃない。
竹下は俺が話しかけない限り、絶対に話しかけてこないし。俺も女子にあんまり話しかけるほうじゃないから、そうなると全く会話はないし。
「壱は、どうやってあの女と付き合ったんだよ」
「人の彼女をあの女呼ばわりすんのやめてくれる?」
「あの女うっせーから俺嫌いだし」
「はー?最低」
ふん、と膨れた遠藤からはたいした話を聞けそうになかったから、無視してその隣の平野に話しかけようと思ったけど。
遠藤は空気を読まずに口を開いた。
「かわいいねー素敵だねーって、褒めるんだよ」
「褒める?」
「そうそう。好きになってもらいたい女のことは、褒めちぎる」
「…そういうの、性にあわねぇ」
俺が深くため息をつくと、平野も「確かに俺も褒めたなー」とぼんやり言った。
お前もか。
「女に媚びるのは癪に障る」
媚びるわけじゃないんだけどねー、と言った平野のことを無視して庭園に寝転がった。
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