07
「あのっ…里垣くん」
「ん」
「意味わかんない…」
「わかれ」
わかれって…!
でもその乱暴な言葉とは裏腹に、彼の無骨な手はすごく繊細に私の髪をすいた。
そういえば1年生の頃、よく髪が綺麗だと言われていたから。それが嬉しくて、3年間ずっと同じ髪型をキープしてきた。
あれ以来彼は私の髪の毛のことを褒めてはくれなかったけど。
彼はそのまま髪の毛を束で掬って、頬擦りするかのように自分の顔に近づけた。
「綺麗な髪…」
「………っ」
「やばい」
「な、なにがでしょう…?」
ガッチガチに固まった私を、彼は離そうとしない。
でも抱き返しを強要したりもしなかった。
何が何やら、わかれと言われても状況はほぼ理解できない。なぜか抱きしめられているということしかわからない。「やばい」の意味もわからない。
おそらく彼は言葉足らずすぎるのだと思う。
でも次の瞬間に、全てが繋がった。
「俺お前のこと、すげー好き」
「やばい」「どうしよう」「好きなんだけど」とたたみかけるように彼は続けた。
その言葉を必死に受け止めるだけで、涙が溢れた。
耳元まで唇を近付けられる。彼の髪がサラリと私の顔にかかる。
それだけで、体が震えるくらいに幸せを感じた。
「そんなの、私だって好き、だもん…っ」
「いや。俺の方がお前が好きに違いない」
いつもの絶対的自信。
でもその言葉が嬉しすぎた。
ほんとに?とか、いつから?とか、聞きたいことは山のようにあったけれど、もうそんなこと後だっていいや。
「自分ん家のネコよりかわいいと思ったのは、お前が初めて」
そう呟いた里垣くんの胸元でクスクス笑って、目一杯息を吸いこんだら
家族の手によって丁寧に洗われたのであろう彼のシャツから、柔軟剤のいい香りがした。
2011/03/20
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