06
彼の声は、少しだけいつもよりも弱くて。
顔を見ると、少しだけ眉をひそめていて。
どうしてそんな、って思わず言いそうになったとき。
「いいのか悪いのか聞いてんだよ」
里垣くんの声が、私に向かって降った。
じわりと、堪えていた涙が滲み出る。
そんなの悪いに決まってる。
でも、今日まで何も言わなかったのはそっちじゃない。
「いいわけ、ないじゃん…っ!」
私が言い切ったか、切らなかったか、のタイミングで。
里垣くんに、抱きしめられた。
ふわりと風に包まれるみたいに、優しく。
突然のことに、バランスを崩して背中が自販機にぶつかった。
「俺も、やだ」
今までに聞いたことのないくらいに小さい声で、里垣くんは私の耳元で囁いた。
心臓の奥を掴まれてねじられたように、息が詰まる。
ドキドキ、なんてレベルじゃない。口から心臓が出そうとはこのことだ。
今…何が起こってる?
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