05
初めてあげたもの、だって。
そんなこと言って、また私を惑わせる。
自分の一言で、私がどんなにドキドキしてどんなに泣きそうになるのか、知っているんだろうか。知っていてやっているならかなり悪質だ。
「だいたい里垣くんなんでこんなところに居るの?」
「居たら悪い?」
「悪くないけど…」
「お前のこと教室から追いかけてきたんだよ。悪い?」
息をのむ。耳を疑う。
一瞬、言葉が理解できなかった。
よく見ると、だらし無く崩れた制服。やっぱり、ボタンも装飾品も全て無くなっていた。
かろうじて、ベルトが残っているくらい。
「お前、俺に言い忘れたことあるだろ」
「え?」
「言えよ」
出た…お得意の、言えよ。
言い忘れたことって、何のことを指しているんだろう。
むしろ私が言いたい。私に言い忘れたこと、無い?って。
私が黙り込んでいると、彼は少し苛立った様子で私を見下ろした。
「…あ、卒業おめでとう?」
「違う」
「3年間ありがとう?」
「違う」
また、くだらないこと言うな、って言われそう。
そう予想していたら、里垣くんは案の定大きくため息をついて、薄く口を開いた。
「俺とこのままバイバイでもいいの?」
[ 60/89 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]