04
「竹下清香」
「…は、い」
「取れ」
ゆっくりと振り向くと、私の真後ろに里垣くんが立っていた。
自販機と自分で、私を挟むみたいにして。
もう一度自販機の方を向いて、言われた通りジュースを取りだすと、それはやっぱりいちごみるくだった。
「さんきゅ」
「あの…」
「あ?」
「それ…私のお金」
「卒業式にケチくさいこと言うなよ」
振り返ってジュースを手渡すと、彼はおおきな手のひらでパシっとそれを受け取った。
それはうっすらとしたカツアゲですが…。
まぁいいや。
それよりもなによりも、この状況が問題。
後ろには自販機、目の前には即ジュースを飲み始めた里垣くん。
私は動けないでいた。どうしたらいいんだろう…
「そんなにジュース飲みたい?」
「え?」
「しるこ買ってやろうか?」
「いりません…」
そういう問題じゃないのよ里垣くん。
あ。でも
「おしるこ、覚えてたんだ…」
思わず出た私の呟きに、彼は首をかしげて反応した。
慌てて「なんでもないよ」と撤回しようと思ったけど、里垣くんの耳には私の言葉がちゃんと届いていたらしい。
「覚えてるよ。俺が初めて女に買ってやったもんだし」
「……………」
「だから、あの缶かなりレアもんっすよ」
「…捨てちゃった」
「俺がね」
自分がゴミ捨てに行ったなんて、そんな細かいことまで覚えてたんだ。
早々とジュースを飲みほしたらしい彼は、そのパックをぐしゃっと握りつぶした。
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