03
さよなら学校。
さよなら先生。
さよなら友達。
さよなら、里垣由和。
まだ肌寒い風に首を縮めて歩く。
私は教室を出たその足で、中庭に来ていた。
入学式の日、里垣くんと話したところ。
中庭の自販機の前に立って、小銭を入れた。
最後だし、思い出に、何か飲もう。
私はどうやら、喧騒が嫌いらしい。
友達も学校も好きだけど、こうやってひとりでぼんやりする時間が一番好き。
ボタンがピカリと光った自販機。真っ先にオレンジジュースに指を伸ばして、一瞬ためらった。
……おしるこにしようかな、なんて。
おしるこは人気がないくせに年中左上の「あったか〜い」コーナーに居る。
今日だって当たり前のようにそこに鎮座していた。
おしるこかぁ。
うー…。
いまさら、こんなにも、悲しい。
さよならなんて、やだよ。
――ピッ
ゴトン
私が決めかねていたら、背後から誰かの手が伸びてきて、勝手にボタンを押された。
鈍い音を立てて取り出し口に落ちてきたのは、見たことのあるピンク色。
「取って」
耳のすぐ近くで、低い声がした。
…硬直。
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