02
卒業式典。
思えば私が彼に恋をしたのは、入学式典のときだった。3年なんて光のごとく、早い。
今日、もしまた私が貧血で倒れたら、里垣くんはココから運び出してくれるだろうか。
そんなことを思いながら、少し前に座る里垣くんをそっと盗み見る。
彼は、すやすやと、安らかに眠っていた。
「素敵な大人になってください!」
有りがちな決め台詞を先生が言って、数人の女子が啜り泣いた教室。
私はただぼんやりと、怠そうにして頬杖を付いている里垣くんを眺めていた。
卒業は悲しくない。新しい場所への旅立ちは、むしろ希望に溢れてる。
だから、涙は出ない。
出るとしたら、里垣くんを……この報われなかった気持ちを思った時に、ポロリ、くらいかな。
「ガッキー!校章ちょーだい!」
「私は名札ほしいー!」
「袖口のボタンくださーい!」
HRの後、案の定里垣くんは女子に囲まれた。クラス以外の女子からも。
その輪の中からスルリと抜け出した遠藤くんが、彼女に手紙を貰っているところを目撃。
いいなぁ。ラブラブ。
陽介にも、彼の本性を知らない女子が数人写真や寄せ書きを求めていた。
彼は爽やかに微笑んで、全てに快く応えている。猫かぶり野郎め…!
「俺のもん欲しいやつは整列しろ、整列」
里垣くんの偉そうな声と、群がる女子のキャッキャとした笑い声が教室に響く。
私はだいたいの友達に寄せ書きを書いてもらい終えて、帰宅の準備をしていた。
「まずは校章、2000円から」
「ガッキーお金取るの?ケチー」
あーはいはい。楽しそうで結構なこと。
ガッキーだって。
私は帰りますよ。帰りますとも。
響く大好きな低い声に後ろ髪を引かれながら、私はひとりで教室を出た。
[ 57/89 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]