12
「あ、里垣くん!」
「…は?あ、なに」
放課後、いつもひとりで帰っていることを知っていたから、昇降口で里垣くんを待ち伏せした。
どうしても今日のお礼が言いたくて。
彼の言いそうな言葉は予想がついていた。
「別にお前のこと助けようと思って言ったわけじゃないけどね」とか。
それでもいい。
「あの、今日はありがとう」
「え?なにが」
「朝の…柴田くん」
「あー…別に」
そっけなく、彼はげた箱から靴を取りだしてパタンと床に投げた。
うわばきは踏みつけているくせに、スニーカーはきちんと履くらしい。
その一連の動きをじっと見ていた私に「なに?」と彼が問う。
「お礼が言いたかっただけ。ごめんね待ち伏せなんかして」
「いいけど」
「じゃあまた明日ね」
私が予想していたものとは少し違った受け応えだったけど、そっけないところはまぁ間違ってはいなかった。
私が背中を向けると、彼がうわばきを箱の中へ頬り込んだ高い音が昇降口に響いた。
「おい」
それと、ほぼ同時。
里垣くんの重たい声が、私を呼びとめた。
突然のことで驚いたけど、足は素直に止まっていた。
「ん?なぁに」
「もしかして、俺のせいだった?」
「なにが?」
「お前らが別れたの」
……あ、知らない顔してる。
里垣くんは、見たこともないくらいに不安げな表情を浮かべて少しだけ俯いていた。
いつも自信に充ち溢れて、どこに居てもその中心で、きっと世界は彼を軸に回っているんだと思わざるを得ないくらいのあの嬉々とした表情が。今、こんなに歪んでいる。
「ちがうよ」
その顔に、そう言わざるを得なかった。
なんでそんなに「世界の中心は俺」みたいな態度が取れるんだろう、っていつも不思議に思うけど、私の好きなのは世界の中心にいつも居る里垣くんなのだ。
だからそんな哀しい顔、してほしくなかった。
私の言葉に彼が少し顔を上げる。
そして言った。
「だよな」
当たり前、とでも言いたそうに片方の口角だけをニッとあげて。
やっぱり里垣くんはそうでいなくちゃ、と思ってしまうあたり、やっぱり私はおかしい。
きっと私は、里垣くん以外に誰も好きになんてなれないんだと思う。
陽介のことも好きだった。でも、好きの度合いが違いすぎた。
ごめんね陽介。
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