05
里垣くんを見ると、優しい顔で微笑んでいた。
多分いま、私とペットのハムスターを重ねているんだと思う。そんな感じの微笑。
彼があまりにもじっとりと顔を見つめるから、思わず目をそらした。
「いいなって……自分にはすごく綺麗な彼女がいるくせに」
ちょっと自嘲気味にそう言った。
言う、というよりは、心の中の声が思わず零れてしまったみたいな感覚。
私の言葉に、里垣くんが黙り込んだ。長い間の沈黙に背けていた目線を戻す。
私のくだらない言葉にムッとしているのだと思ったのに、彼はとてもきょとんとした顔をして私を凝視していた。
「何言ってんのお前」
「…だって」
「だって、何?」
「………、」
「言えよ」
この人、怒っているんだろうか、驚いているんだろうか、それとも愉しんでいるんだろうか…。
うすら笑ってる。頬杖のせいで頬がぶにってなってるにも関わらず、その端整さが崩れていない。
一歩も引かない里垣くんにため息をつく。なんで自分の彼女のことを他人に言わせたいんだろう。
「里垣くん、小泉先輩と付き合ってるじゃん」
「お前だって柴田と付き合ってんじゃん」
「そうだけど…そういうことでなく、」
「どういうこと?」
「綺麗な彼女がいるのに、私のこといいなとか言うから…」
バカにしてるんでしょ、どうせ。
わかっているけど、小泉先輩の名前を口にした途端泣きそうになった。
ぐっとこらえていると、なんと里垣くんはとうとう声をあげて笑った。
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