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「清香、お待たせ」
3年生の秋、私は柴田くんと付き合うことになった。
彼の方から、こんな私に「好きだ」と言ってくれたのだ。
びっくりして、死んでしまうかと思った。
もちろん断る理由がまったくないから、お付き合いさせてもらうことにした。
私はいつもこうして、サッカー部に入っている彼の練習が終わるのを教室で待っている。
「陽介お疲れ様」
「今日の練習ほんとハードだった…」
「毎日頑張るねぇ」
彼は私を清香と呼んで、私は彼を陽介と呼ぶ。
そんな当たり前のことがなんだかくすぐったくて、私は確かに毎日幸せだった。
「清香ってさ、癒し系だよね」
「え?そうかな」
「うん。言われたことない?」
「…癒し系…」
思いを巡らせてみて、嫌な壁に当たった。
『癒し系』と、初めて言ってくれたのは里垣くんだった。
思い出すと心がぐぐっと痛くなる。そんなの陽介に失礼だから、私は思い当たらないふりをする。
「言われたことないや」
陽介がそっか、と呟いて私の手を握った。
私がそれを握り返すと、彼が嬉しそうに優しく微笑む。
そんな当たり前のことがなんだかくすぐったくて、私は確かに毎日幸せだった。
確かに。
確かに。
…多分。
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