08
「そういえばさっき、先輩に花やった」
「……小泉先輩?」
「あれ。知ってんの?」
「うん。噂になってるから」
こちらに目を向けてきた里垣くんを、見つめていられなくて軽く俯く。
小泉先輩とは月とすっぽんの私を、見てほしくなかったのだ。
私の言葉に彼は「そっか」と言うと、クリスマスローズから手を離した。
「小泉さん、綺麗だもんな」
あぁ。
そんな言葉、聞きたくなかったな。
でも私は咄嗟に笑顔を作る。自分の気持ちを悟られないように。
「すごくオーラがあるよね!」
「うん」
「でもここの花摘んでいいの?」
「いや。摘んだんじゃなくて、綺麗なまま落ちた花を拾ったから、やった」
「そうなんだ‥」
「ほら。あれとか」
里垣くんが顎でしゃくった先に、ピンク色の花が綺麗なまま横たわっていた。
なんという名前なのか、無知な私にはわからないけど。
落ちてしまった花を見て、自分のハートようだと思った。
私の気持ちも、枯れる前に落ちてしまったから。
すると里垣くんが立ちあがって、その花を丁寧に拾い上げると私の前に立った。
「この花、お前みたい」
ドクリと心臓が大きく揺れる。
気持ちを読まれてしまったのかと思った。
彼は私の手首を掴んで、私の手のひらの上にその花をそっと乗せた。
「小さくて、赤くて、かわいいから」
でも里垣くんの発した言葉は、私の想いとは少し違って。悟られたんじゃなかった、とホッとする。
彼女が出来た男の子って、こんなにも変わるんだ。
女の子にこんなに優しい言葉をかけるようになるんだ。
彼をこんな風にした小泉先輩が
うらやましくて、憎らしかった。
2011/03/10
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