06



庭園の奥には、冬に咲く花を栽培している小さめの花壇があった。

そこに、いわゆるヤンキー座りで花を見つめている人影。

この人は、いわずもがな。




「里垣くん…?」

「あぁ?…おう、竹下」




…今、完全にメンチ切ろうとしましたよね?

私がびくびくしながら見ていると、彼はすぐに花に目を戻した。

入学式の日も、こうやって花をじっと見ていたなと、光景がフラッシュバックする。





「どうやって入ったの?」

「鍵持ってる」

「なんで!」

「ペナルティんとき借りた鍵返さなかった」




そういえば、一時期鍵が返ってこないと問題になったことがあった。

その時のペナルティ生徒を問いつめても、みんな知らないの一点張りだったから仕方なく先生が鍵を作り直したと聞いた。

犯人は里垣くんだったのね。彼なら普通にこういうことやりそう。教師ならわかれよ。




「お前今日掃除?」

「うん。トイレ行ってて朝礼遅刻した」

「はっ。のろま」




里垣くんが笑う。その顔が大好きだったけど。

里垣くんには、大切な人が出来たんだもんね。


さっき小泉先輩とすれ違ったのにも、合点がいった。

ここでふたりで会っていたんだろう。


ザワザワと、里垣くんの周辺をほうきで掃く。

彼はしばらく何も言わずにほうきの動きを目で追って、そのまま興味無さそうに花へ目線を戻した。

だから私も、別の場所へ移動しようと彼に背を向けた。




「竹下。来て」




でもふいに、大好きな声が私を呼びとめた。

くるんと振り向くと、また手招きをしている里垣くん。


彼を見るだけで、こんなにも胸がときめく。痛いくらいにドキドキする。

里垣くんに彼女がいるとわかった途端に、今まで穏やかだった好きという気持ちが、激情となってしまったみたいに。




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