06
ケーキ屋さんの近くの公園のベンチに座る。
そして、2人でケーキの箱を開けた。
里垣くんは、普段からは想像できないくらいに繊細な手つきで、壊れないようにマカロンケーキを手に取る。
彼女にも、そんなふうに触れるのかなって、少し思ったりした。
「うまい!」
「おいしいねぇ」
「お前のなに?」
「ショコラ」
「それもうまそうだな」
彼はしっかりとマカロンを持ったまま、私のケーキを覗きこんだ。
サラサラと髪の毛がこちらにかかってくる。しかも、いい匂いまでする。
心臓が痛いくらいに鳴って、顔がまた赤くなってしまった。ばれませんように…
「うーん…いいなぁショコラ」
幸い、彼は私のドキドキなんか全く気付いていないようだ。
ケーキに夢中みたい。ケーキがうらやましい。
私はこんなに里垣くんに夢中なのに。
「食べる?これも」
「…でもお前の分なくなるじゃん」
「いいよ私は別に」
「じゃあ、これ半分やるから、それ半分くれ」
里垣くんは食べかけのケーキを私にずいっと差し出した。
崩れたマカロンが、ぱらぱらと地面に落ちる。
「これ……食べかけじゃん」
「嫌なのかよ」
「嫌っていうか…」
本当にこの人は、何も思わないんだろうか。
表情は、俺の食いかけは食えねぇっつーのかよこのアマ!と言いたげ。
ほんとにいいの?と聞くと、彼は食えよと返した。
これは食べないといけないパターンだね。
「じゃあ、半分こね」
「ショコラはお前が先に半分まで食え」
うん。そうするよ私のケーキだし。
里垣くんの時間は、あくまでも里垣くん中心でまわっているようだ。
彼は満足そうに自分のケーキを半分だけ食べて、私が食べ終わるのをじっと見つめて待っていた。
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