09
「帰ってもよかったのに」
「そういうわけにはいかんだろ」
「いかんのか」
「いかん」
なんなんだろ、この人。
変なこと言ってるのに、顔色一つ変えない。
そして私の前にこちらを向いて座ると、頬杖をついて日誌を眺めた。
「字きれー」
「そうかな」
「うん。んで、相変わらず髪きれー」
「…ありがと」
うーん。
ばかなのかなこの人。
きっとみんなが思っているような、クールで男らしいという感じともちょっと違う気がするけど。
発する言葉から知的な感じは全くしないし。失礼だけど。
「里垣くんモテてるねぇ」
「そう?」
「うん。ファンクラブできそうなくらい」
「まぁ俺かっこいいから」
「…本気で言ってる?」
「俺、冗談言わないよ」
うーん。
やっぱりばかなんだなこの人。
だからこそなのか、たわいもない会話も里垣くんとなら楽しいと思えた。
私はあまり男子と関わらないけれど、里垣くんとは普通に話せた。
暴君ぶりは苦手だけど、暴君のくせに実はちょっと抜けてる感じはいいなって思う。
みんなの知らない里垣くんを知っていることも、少し優越感だった。
「お前はあれだな」
「あれ?」
「癒し系」
「うそー?」
「うん。俺ん家で飼ってるハムスターみたいだ」
「………」
ちょっと待て。
「ハムスター飼ってるの?」
「おう。ハムとネコ飼ってる」
「ねずみとねこを同時飼い…」
「ねずみじゃねぇよ。ハムスター」
里垣くんは、奥が深い。
掘れば掘るほど、いろんなものが出てくる人。
それもおもちゃ箱みたいに、かわいいものばっかりが飛び出す人。
竹下清香。今年で16歳。
目の前の男に、完全に心くすぐられました。
こうして私の青春は、里垣由和一色になっていった。
2011/03/03
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