08




「おい竹下」




だけど里垣くんは、私とは少しお話をしてくれる。

きっと入学式のよしみだろうけど。

でもそんな彼が私はちょっとだけ好きだった。恋愛感情というよりは友達感覚で。




「なに?」

「今日こいつと日直代われ」

「え?」

「決まりね」




こいつ、と指さされたのはグループの一味である遠藤くん。

彼は人懐っこそうな笑顔をこちらに向けて、ぺこりと頭を下げた。

代われって…なんで私が。


黒板を見ると、日直の欄には遠藤くんの名前と里垣くんの名前が書いてあった。

え。私、里垣くんと日直やるのか…




「ごめんね竹下さん。今日俺デートだから」

「あ、…はい」




そんな理由かよ!


隣で里垣くん目当ての友達が「なんなら私が代わろうか?」と私に言って来たから、あわよくば代わってもらおうかと思ったけど。

里垣くんがものすごい形相で睨んでいたから、大人しく私が引き受けることにした。




放課後、案の定日誌を押し付けていつの間にか里垣くんはいなくなっていた。

そんなことだろうと思ったけどね。

渋々ひとりで残って日誌を書いていると、聞いたことのある音が誰もいない廊下に響いた。


ぺたんぺたん、って。




「悪い。竹下」

「…里垣くん?どうしたの」

「日直忘れて帰ってた」

「戻って来たの?」

「そうだよ。悪いか」




いつものように暴言を吐きつつも、少し息を荒くしていた里垣くん。

どうやら走って戻って来てくれたらしい。


それがわかって、少しだけキュンとした。




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