06



中庭にはお花がたくさん植えてあって、満開の時期を迎えていた。

いろとりどりの花が、花壇に所狭しと並んでいる。

私、こういうかわいいもの見るの大好き。


飲み終えたおしるこの缶を、里垣くんが捨てに行ってくれた。

おしるこもそこそこ威力があったらしい。貧血はもうほぼ治っていた。


遠くのほうから、すでに踏んでいるうわばきをぺたんぺたん言わせながら彼が帰って来た。

たったひとりで歩いているだけなのに、横幅が広いわけでもない…むしろ細いのに、とっても威圧的に見える。オーラが黒い。


彼は中庭に差し掛かると、私のほうとは別の方向へ足を向けた。

…え?どこ行くんでしょう?




ぺたんぺたんと彼が歩いていくのを目で追う。

すると彼は、満開の花壇の前に突然しゃがみこんだ。


そして、別に何をするわけでもなく、じーーーーっと花を見つめた。

眼光鋭く花を眺めるもんだから、花が一瞬で枯れてしまうんじゃないかってひやひやするくらい。

この花食べられそう…とか思ってんだ絶対。


でもすぐに私の視線を感じたらしく、彼が顔を上げる。




「おい。こっち見んな」

「あぁぁごめん」




見んなって言われてもね…。

とりあえず、顔をそむける。


すぐにぺたんぺたんが中庭に鳴り響きだして、その音は私のすぐ横までやって来た。

顔を向けると、彼は私の隣にすとんと座る。




「お前さぁ、髪綺麗だね」

「はい?」

「真っ黒でストレートで長くて。綺麗」

「え、どうしたの急に」

「思ったこと言っちゃいけない?」




何を言い出すのかと思えば、里垣くんはそんなことを呟いた。

ちょっとだけドキリとする。ロングストレートの黒髪は、私の密やかな自慢だったから。

今まで女の子にはよくお世辞で褒められたけど、男の子にこうして褒められたことはなかった。

だから、素直に嬉しかった。




「嬉しい。ありがとう」




そう言うと彼は、ふん、とそっぽを向く。

そして




「調子乗んな」




とだけ言った。




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