08
「嫌だったのは、由和くんが小泉先輩と一緒にいたことじゃないの…」
「は?」
「あのケーキ屋さんで、なんで一緒にケーキ食べてたの…?」
「いや……誘われて」
「あのカフェスペース行ったの、初めて?」
「…うん」
「……初めては、私と行ってほしかったのに」
あぁ。
そういうことだったのか。
清香の気持ち、全然わかってやれてなかった。
そんなふうに思ってたなんて、あのケーキの思い出をそんなに大切にしてくれてたなんて、思いもしなかった。
そんな健気な清香の気持ちがわかると、彼女が何百倍も愛しく思えて。
「今日買ったケーキさぁ。俺と食べようと思ってた?」
「…………」
「高校ん時、俺がカフェには行けないって言ったから、買って持って来てくれようとした?」
「………そう」
「かーわいい」
なんでそんなに健気なんだよ。
馬鹿かお前は。
行きたいなら、引っ張ってでも連れてけ。清香の願いなら、絶対にきくし。
「食べよ。ケーキ」
「…ここで?」
「おー。懐かしいだろ」
「…うん」
「いちごのマカロンケーキは、清香とじゃないと食べれないから」
俺の言葉に、清香は胸に顔を埋めたままのくぐもった声で「嬉しい」と返した。
大好きな黒髪を撫でて、そこにそっと唇を添える。
本当にそっとすぎて、清香は気づかなかったみたいだけど。
「今回はまだ未遂だから。次は絶対ふたりで食べに行くぞ」
「うん」
「つか、これから一生、清香以外の女とはケーキ食わねーから」
清香。
これ一応、プロポーズだから。
察しろよ。
END!
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