04
堂々と私を引っ張って歩く里垣くん。
その姿が、のちに少しだけ有名になってしまって恥ずかしかった。
体育館の外に出ると、冷たい風に当たって少し気分が良くなった。
ここで少し休むだけで、大丈夫かも。
「ありがとな」
突然、里垣くんがお礼を言った。私の腕をつかんだまま。
何事かと顔を見上げると、彼はやっぱり私を睨んでいた。
到底「ありがとう」に似つかわしくない目つき。これは生まれつきなんだろうな。
「いえ、こちらこそ…。ていうか、なんでそちらがお礼を…」
「お前のおかげで式典抜け出せた」
「………え?」
「幸せすぎる」
あぁなんか今。すっごい言葉が聞こえたけど。
里垣くんはとっても満足げだった。だからこの言葉が冗談ではないことは確かだと思う。
ていうかこの人、幸せの沸点低くない?
「保健室行く?」
「…あ。別にもう行かなくてもいいかな」
「だよな」
だよな。ってなんだよー!
保健室に連れて行くために来てくれたんでしょ!でくのぼう!
…とは、口が裂けても言えない。
もし私が「行く」と言っても、ひとりで行けるよな。なんて言われそうだ。
彼は私の顔を覗きこむと、うん。とひとつ頷いた。
「外出たら、顔色が紙から雲ぐらいに戻ったな」
「くも…?」
「空の」
「いや、そういう問題でなく…」
この人の感性は絶対におかしい。紙から雲ってなんですか?
「じゃあどういう問題?」
まるで、俺が何か間違ったとでも言いたいのかといった顔。
こんな怖い人の機嫌を損ねるのは嫌だ。
「いえ…なんでもないです」
「つーか敬語遣うな」
ついに命令まで…!
従う以外に選択肢のない私は、へらへら笑って「うん」とだけ言っておいた。
彼は、よし。とまるで犬のしつけのように言うと、私を中庭のベンチに座らせた。
気付けば気分は、だいぶ回復していた。
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