始めこそは気まずい沈黙もあったが、料理を食べるうちに会話が弾み、気づけばうるさいくらいになっていた。
直井だけは何故か「そうですね」ぐらいの相槌しか返してこない。初対面なのだから、こんなものかと思っていると女性陣が盛り上がり負けずと日向が参戦すれば、また盛り上がる。
まるで修学旅行に来ているかのような状態だった。
同年代というのが、また拍車をかけてくれたのだろう。
何にせよ、日向は久しぶりに腹が痛くなるほど笑った。
「やだ、もう10時じゃない」
ゆりが時計を見ながら驚いている。
6時過ぎから集まって、早4時間が経過しようとしていた。
「あっちゅー間だったな…」
「じゃあ、ここいらで御開きにしようか」
「異論ありません」
岩沢の提案で、各々が手に鞄を持ち部屋から出た。
「なんか寂しいですねー。ユイまだまだ喋れますよ」
「まぁまぁ、来週からは嫌でも顔を合わすことになるんだし。今日はこのぐらいが、ちょうどいいわよ」
「さっすが、リーダー!」
レジで領収書をもらい、店から出るとひやりとした風が吹いていた。火照った頬を冷やしてくれる。
「今日は楽しかったわ。来週から宜しくね」
「ひなっち先輩!プロポーズ待ってますよ」
ぶんぶんと両手で手を振りながらユイはゆりと岩沢の手を取って駅へと歩き始めた。
「さてと、俺らも帰るか」
迎えにきてもらおうとマネージャーに電話をかけながら、直井の方を向き直る。
(…なんだ?)
直井は日向を見ていた。ただ見ているというよりは、真っ直ぐとした視線で。なのに、日向を見ていない。まるで日向を通して誰かを見ているような。
そんなはずはないと思っても、一度感じた違和感が消えることはなかった。
『日向君?』
「あ、すんません。今終わったとこなんで、迎えにきてもらえますか?」
『じゃぁ、ちょっと待っててね』
マネージャーとの電話を切ったあと、そうだ。と、もう日向を見ていない直井に話しかける。
「直井、お前も送ってもらうか?」
「いえ、僕はお先に失礼させてもらいます」
直井は意外そうな顔をしてから、日向に断りを入れて駅へと歩いていった。
それはつい先程ユイたちが向かった方角で。
「んだよ、一緒に帰りゃいいじゃねーかよ」
結局、直井ことだけはよくわからなかった。
実際に映画でも"日向"と"直井"が仲良くする機会はない。
"直井"が唯一懐いたのは、主人公の"音無"だけ。
(そーいや、音無ってどんな奴がやんだろう…)
"日向"の親友になる"音無"。
間違いなく"ゆり"と、あるいはそれ以上にカットを共にすることになる。
気が合う奴であってほしいのが、日向の本音だった。
「ま、それも来週のお楽しみか」
他のキャラはともかく、"ゆり"、"日向"、"音無"、"天使こと立華奏"は撮影のもっとも序盤に揃う4人だ。必ず最初の顔合わせはこの4人になる。
残りは撮影の流れ次第では、今週中には会えないかもしれない。想像以上に映像というものは時間がかかる。
大変な仕事だ。
けれど、それと同じくらい楽しみにしているのも、日向にとっては重要だった。
再び喜びを知る。
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