扉を開けると、中にいた三人の視線が一斉に日向に向いた。
「始めまして、日向です」
部屋に入る前に軽く会釈する。
挨拶は人間を円滑にするためには始めにしなくてはならない。
三人の視界が日向から後ろのゆりに動いたのを確認してから、部屋に入る。
「おぉ、あんたの旦那さん来たよ」
右奥に座っている赤の髪の少女が、手前の一回り小さい濃い桃色の髪の少女に面白ろそうに話しかけた。
「旦那って…あっ!ユイ…ちゃん?」
「ユイでいいですよー。私もひなっち先輩って呼びますから」
ぴょこんと跳ねた耳横の髪がユイの性格を現しているようだった。
灰色の大きめパーカーにアッシュブラウンのチェックボトム。フリンジのブーツ。
本人共に小柄で活発的なユイにぴったりの服装だった。
赤い髪の少女はクールなイメージで、白の七分袖に黒のサロペット。そして、やはり彼女も美人。
でも、どこかで見たことがある。
普段忙しくてテレビなどはめったに見ない日向だったが、彼女には見覚えがあった。
目が合えば、笑顔でひらひらと手を振られる。
「あー…と、どっかで会ったことなかったっけ?」
「直接会ったことは無いよ。歌は歌ったけどね」
「あっ、思い出した!」
以前、日向が主演を努めた映画の主題歌を歌っていた少女だ。
天才的な才能で、半ば十代でソロデビューしたシンガーソングライター。
「悪い悪い、ど忘れしちまった」
「別に気にしてないよ。そのうち嫌でも覚えさせるから。ちなみに"岩沢"ね、"岩沢まさみ"。Girl Dead Monsterの前期ボーカル」
「で、ユイが後期ボーカルです!」
「日向先輩の後ろ方は?」
ユイが岩沢に合わせて勢いよく挙手した正面で、控えめに手を上げる少年がいた。
見た目的にはユイ寄りで、日向達よりは2.3年下に見える。
サイドが長めの黒髪で、翠混じりのジーパンに淡いクリーム色のセーター。中には白のハイネック。
大人しそうな少年だ。
「ゆり。あなた達のリーダーよ。覚えおいてちょうだい」
「了解です!」
さっそくユイは自分の隣にゆりを引っ張ってきた
そして、日向は性別的に少年の隣に座った。
「それで、そこの少年。名前は?」
まだ会って数分だが、ゆりからはリーダーとしての威厳が伝わってくる。
まさに嵌り役だ。
「"直井文人"です。それと来週からは僕が神です」
「ははっ、怖い怖い。直井の出番はまだ先だろ?」
「すぐですよ」
笑う日向を見つめる直井の視線に、一瞬背筋が冷えた気がした。
見透かされるよう。
例えるなら、恐怖とよく似た感覚。
「メニューどうぞ」
「あ、りがとな…」
柔らかな笑顔でメニューを差し出す直井、自分の気のせいだと言い聞かせた。
少しずつ距離を縮めて、
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