マネージャーに連れられて向かったレストランは、あまり馴染みのない店だった。
まだ仕事があると言ったマネージャーと別れて、店に入る。
マンションのような外観だが、中に入れば高級感あふれる造りになっていた。
一階のレジを抜けエレベーターに乗り込む。
予約されている階に着くと、個室に分けられている。
「しくったな…」
てっきり普段行く店だと思って、カジュアルな服装で来てしまった。
白地に黒で英字がプリントされたシャツに、某ネズミキャラの濃い蒼のパーカー。古着屋で買ったジーンズにショートブーツ。
「先に店聞いとくんだった」
人々の理想像たる俳優にあるまじき失態。
TPOは大切なのだ。
マネージャーに教えられた部屋を探していると、突然肩をたたかれた。
「…っ!?」
「初めまして。"日向"君」
どちらの日向で呼ばれたのか分からないが、取り敢えず振り向くと臙脂色の髪に黄色いリボンの少女が立っていた。
おそらく同い年くらい。
可愛らしいながらも、美人の表現がよく似合う美少女。
腰に手を当てて立っているだけなのに、変に迫力があった。
花柄のワンピースにブラウンのロングブーツ。
春先といえどまだ肌寒いのか、片手に白のトレンチコートを持っている。
「えっと…」
「ゆり。"仲村ゆり"よ」
にこりと日向に手を差し出した。
ゆり。通称ゆりっぺ。
神への理不尽を訴え、ある種の物語の原点となった重要な役。
舞台のメインチーム"SSS"のリーダーにして日向と共に立ち上げた設立者の一人。
そして初めて天使に抗った、気高き少女。
多々いる主役達の中で、序盤から最終まで画面に映るだろうヒロイン。
「あぁ!初めまして。確かにゆりにぴったりだ」
「そうかしら?ありがとう」
「これからよろしくな。で…本名は?」
当然のように聞けば、"ゆり"は意外そうに目を見張った。
「あら、聞いてないの?今週から撮影期間内は撮影含む休憩、プライベートも全て自分の役名で通すことになってるの」
だから、本名は必要ない。
むしろ今回ばかりは邪魔になるだけだ。
あまりの徹底ぶりに、流石の日向も驚いた。
「すっげー凝ってんのな。完璧に役に成りきれ!ってことか…」
「著者が映画の撮影条件として出したみたいよ」
「へぇー…」
よほど、この作品にこだわりがあるのか。あるいは、思い入れがあるのか。
何にせよ、面白い。
「なら、期待に応えて"日向"になりきりますか」
「十分、ぽいわよ」
思いっきりガッツポーズをすれば、ゆりが腹を押さえながら笑った。
彼女も十分らしい。
「あとは誰が来てるか知ってるか?」
マネージャーは何人かと言っていた。
ゆりと2人きりとうことは、ないだろう。
「さぁ?私もいま来たところだから」
「じゃあ、お邪魔しますか」
日向ならきっとこう言うだろう。
勿論、俺自身も。
ゆりと顔を見合わせ、2人でにやりと笑うと予約の部屋をゆっくりと開けた。
彼女とは気が合いそうだ。
出逢いをやり直し、
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