「では、クランクインは来週の頭から。今週はキャストの顔合わせと台本の確認お願いします」

そう言ってマネージャーから、今週のシフトと台本を渡された。


ページを捲っていけば、台詞や簡単な設定以外の注意点は殆ど書かれていない。
自分の直感で演技しろと言う監督は少なくないが、ここまで何も書かれていない台本は珍しい。

始めはマネージャーが、これは俳優として必ず成長を促す作品だと言って進めてきた。
興味本位で引き受けたものの、なんだか本当に気を引かれてきた。






『天使の鼓動』


一年ほど前、ネット上で公開され空前絶後の人気から大ブームを巻き起こした著者不明のWeb小説。
独創的かつ新しい世界観と、死を前提にした切なくも温かいいストーリー。
書き手が上手いせいか、その内容は非現実的でありながら、妙に現実味を帯びてた。

そして映画化が決まったのは、つい1ヶ月ほど前。
書籍化もされないままの映画化。
そのことは当然ファン達の間でも話題となり、撮影が始まる前からニュースやバラエティで宣伝されている。

二週間に渡り行われたオーディションで日向は"日向秀樹"役を勝ち取った。

役が決まった当初は名前で選ばれたとばかり思っていたが、原作を読む限りなかなか日向に似合う役だった。
何故だか親近感が沸いてくる。
まるで、自分自身のような。
これなら役に入り込むのにも、そう時間はかからない。

他の役達も十代を中心に、日向のような俳優やプロのモデル。駆け出しのアイドルから、全くの素人まで様々なジャンルから集められた。
実際にまだ他の役者の顔見ていないが、きっと嵌り役ばかりが集まっているのだろう。

楽な仕事ではない。

普通の二時間映画とは違って、前編後編からなる2部作であり共に三時間弱。

一年では終わらない。
当然、その間に他の仕事は疎かになる。
けれど、確実にやりがいはあるだろう。

台本に一通り目を通し終わると、タイミング良く携帯がなった。
ディスプレイにはマネージャーの名前。

「はいよ、っと」

『あっ、今暇かな?』

「今台本読み終わったとこなんで、特には…」

『じゃぁ、ちょうど良かった。今夜夕食がてら、他の出演者と顔合わせはどうかな?』

「今夜っすか?」

『何か用事でも?』

「いや、行きます」

『じゃぁ、迎えにいくから家出る準備しといて』

「はい」

パタンと携帯を閉じて、ふっと息を吐く。
他の出演者はいったい、どんな奴らだろうか。
マネージャーに言われたからではない。
きっと、これで何かが変わる。

自分にとって大きな分岐点となる。



「ま、頑張りますか」






伝えたいことがある。







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