"音無"が"天使"に刺されたところで、オープニングフィルムの撮影は終了した。リテイクもない順調な出だしに、スタッフを含め監督も嬉しそう顔をしている。

「ほら、行くわよ」

どん。と、背中を押され、ゆりが音無たちの方へと走っていく。その後ろを日向が走っていく様は友人同士のようで、大人たちの笑みを誘う。

「音無くん、奏ちゃん!」

「あ…ゆりっぺさん」

走りながら近づいてくるゆりに気づいた奏が嬉しそうに駆け寄っていく。同じ年の女の子がいたことが嬉しいのかもしれない。

「さん、はいらないわよ」

「さんをつけるような相手でもないしな」

追い付いた日向がけらけらと笑いながら言えば、殴るわよ。と、人を射殺しそうな視線が返ってくる。

(この子が"天使"か…)

奏はまさに天使にぴったりの子だった。清楚な容貌に、長い髪が風にさらさらと揺れている。

「私が"仲村ゆり"で、こっちのアホそうなのが"日向秀樹"君よ」

「アホって…」

まだ会ったばっかじゃねぇか。がくりと肩を落とす。
ぷはっ。控えめな笑い声が奏とゆりの後ろから聞こえてくる。

(あ…音無だ)

一歩下がったところで、口を押さえて楽しそうに日向たちを見ていたのは"音無"だった。
自分たちを見る目はとても優しげで、そんな音無を見返す奏の顔も綻んでいる。


「あー…、音無!俺が"日向"だ!!」


あれ?そう思ったときには、時すでに遅し。どこかのヒーローのような名乗り方をしてしまった。
徐々に恥ずかしさが込み上げてくる。誰もつっこんでくれないのが、実に悲しい。

「日向君…くすっ、面白い」

「ほぉら!やっぱりアホでしょ」

一拍置いて、奏がくすくすと笑いだす。その隣ではゆりが腰に手をあてて嘲笑うかのように豪快に笑う。

「日向…」

凛とした涼やかな声が耳を打つ。気づけば、すぐそばに音無が立っていた。
女性のものとはまた違う、輪郭が溶けてしまいそうだと感じたのは何故か。白い肌と暁色のコントラストに、ぞくりと背筋が震える。

「俺は…音無だ、"音無結弦"。よろしくな」

どこかぎこちない挨拶が、音無に見とれていた日向の胸を締め付けた。何がどうと言うわけではない。音無の声に切望を感じてしまったから。

「私も…音無君と仲良くなりたいわ」

奏が音無の服の端を引っ張った。

「結弦でいいよ。その…奏って、呼んでいいか?」

「貴方がそうしたいなら。私も結弦と呼ぶわ」

ふわりと微笑む二人に、ゆりは日向の隣にそろっと近寄り脇をこづく。

「可愛いわね、あの二人。いい保養だわ」

「だな」

ゆりは至極嬉しそうな顔で、音無の奏のやり取りを見ている。確かに二人を見ていると癒される。

「あとは編集だけだから、今日は四人とも上がっていいよ!」

監督の指示でスタッフたちが照明やカメラを片付け始める。明日も頑張ってね。何人かのスタッフがすれ違い様に声をかけてくれる。
さぁ。とゆりが辺りを見回したことで、三人の視線がゆりに向いた。ゆりはその状態に満足そうに、にんまりと笑うと、全員と視線を合わせる。

「私たちは今日この瞬間から最後の最後まで一緒なんだから、時間はたっぷりあるわ。いい友達になりましょう」

ゆりの言葉にみんなが頷いた。






君の笑顔が見たい。







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