「うわー…」


撮影二日目。
それはもう壮絶な光景だった。十人十色。まさに人間には計り知れない個性があるのだと思い知った瞬間だった。

「…すごいな」

「あはは、面白いじゃない」

原作を裏切らない個性的な人間がグラウンドに集まっていた。変人集団SSSと改名しても良さそうなぐらいに。唖然とする日向とは対照的に、ゆりは至極楽しそうだった。
俳優としては、見習わなくてはならないほどの適材適所。演技ではない時間のはずなのに、そこにはSSSがいた。何もしなくても出来上がっている。


(あ…まただ)


ふとした瞬間に込み上げてくる懐かしさ。うっかりすると泣いてしまいそうなほどに。

「日向君?」

ゆりが首をかしげると同時に、また一人、グラウンドに入ってきた。

「おはよう」

一般生徒の制服を着た音無だ。
朝日に照らされた髪が輝いて見えるのは、自分だけだろうか。

「おはよう、音無君。…あら、奏ちゃんは?」

そういえば、まだ来ていない。

「今日は奏の出番はないから、来ないんじゃないか」

たぶん。と言う音無に日向とゆりは納得すり。今日の撮影は音無がSSSに入るところまでだ。昨日のように取り直しがなければ、夕暮れの音無とゆりのシーンまで撮りたいと監督が言っていた。台本と原作を読む限りは、そんな無茶なと思うが、何故かいけそうな気がするから不思議だ。

「お、てめえが音無か。よろしくな」

「その髪って地毛?」

「ひょろいなー。ぶっ倒れんなよ」


音無に気づいた他のメンバーが近づいてくる。音無も嬉しそうにメンバーと挨拶を交わす。それにスタントマンとエキストラが加わると、本当に一学年分はあるじゃないかと思う。

「こりゃ、確かに学校だな」

撮影が忙しくて、本来の学校にはあまり通えていない。

「"音無"君と"野田"君は、そろそろ保健室に移動してください」

本日最初の撮影の準備が出来たようだ。スタッフが音無と野田を保健室に誘導する。

「ゆりっぺ、覗きにいこうぜ」

「とーぜん」

意気込む日向とゆりは、音無と野田の後ろを着けていく。


保健室では台本を片手に、最終確認の最中だった。椅子の上に畳まれた制服をスタッフが血糊で微調整している。野田は中国にでも修行に行ってたんじゃないかと思うほどの手捌きで、愛武器を回していた。

「引くわー…」

嬉々とする野田に、日向が若干身を引いた。

「あの人が野田さん?」

「か、奏ちゃん!?」

しゃがみこんでい日向とゆりの後ろから、突然声をかけられた。振り向けば、同じようにしゃがみこんだ奏がいる。

「今日は休みじゃなかったのか?」

「見学」


私服姿の奏は楽しそうに笑うと、人差し指を口に当てた。
音無と野田が配置についたから、撮影が始まるのだろう。

(か…なで、ちゃん?)

そのとき、ふっと聞こえてしまった。後ろで奏が「結弦」と呟いたのを。そな声が、あまりに切なげで。日向の耳から離れなかった。






出来たら手を繋いで







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