10:特別な日。


もぞもぞと腕の中で柔らかい熱が動く。
浮いて、沈んでを繰り返して、ぼんやりと霞んでいた意識がはっきりとした輪郭を持ち、浮上する意識と共に重い瞼を開ける。

耳に響く雨音は、夕方よりも少しだけ勢いを落としていた。

ん、とくぐもった声を零して、ベッドの近くにある時計に視線を飛ばす。
23時55分。
小太郎の誕生日まで、あと5分。

梅雨の時期に相応しい雨が降り続く日。不快指数だけが延々と上がっていく季節。
明日は折角の誕生日だというのに、天気予報はずっと続く傘のマークを変えようとはしなかった。

夕飯の後、いつものように抱き締めて、何度も何度もキスをして、そのままベッドに引っ張り込んだ。
いつも以上に湿った肌を何度も重ねて、甘すぎる余韻に飲み込まれるままにふたりで意識を手放した後。

− 起こす、か?

誕生日の最初の瞬間は、いつも一番に言葉をかけると決めている。
「おめでとう」と、「ありがとう」と。
不思議なものだと思う。自分の誕生日はどうでもいいくらいなのに、小太郎の誕生日は特別で、とても大切に思えてしまう。
いつも素直に伝えることの出来ない言葉や気持ちも、誕生日なら何も迷わずに言うことだって、出来る。

今年はプレゼントをふたりで買いに行こうと決めていた。
自分で用意することも出来るのだが、今年は小太郎に選んで欲しかった。
というより、プレゼントを選んでいる小太郎を見たかった。

ステファングッズの前で見せる嬉しそうな笑顔は、なんだかんだと言っても可愛いと思ってしまう。

深く考えると「何か」に負けてしまう気がするので、深く考えないようにしている。
緩やかに上下する肩に手を伸ばすと、眠ったままの小太郎が腕の中でとても優しく笑った。

− 俺が、嬉しくなって、どうすンだ。

自分の腕の中で甘い心を預けて眠る姿が、何よりも愛おしくて、大切で。
閉じられた瞼の奥にあるその色を見たいと強く想う。
真っ直ぐに自分を見つめる姿も、少し怒ったように見つめてくる姿も、俯きがちに頬を染める姿も。

自分だけを写す目と、その姿を独り占めにしたい。
その目に映る姿が自分だけであるなら尚更だ。

「ん、…しん?」

ふっと意識を浮上させた小太郎が、目を擦りながら顔を上げた。
あれこれと考えているのが見抜かれたような気がして、一瞬だけ小太郎を抱き締める腕に力が入る。
ふたりを包んだタオルの下の無防備な素肌。
そこに残る赤い痕も、その時感じた柔らかさも、他の誰も知らない。

「ん、…んぅ、、」
「ふ、」

寝ぼけ眼のままの小太郎にキスをして、額と、瞼と、頬と、唇に触れる。
長い黒髪が張り付いた首筋をそっと撫でると、小太郎が思い切り抱きついてきた。

「しんすけ。晋助…、」
「なに?」
「…うん?」
「寝ぼけてンの?」
「そんなことはないぞ。ほら、ほっぺが痛いだろう?」
「痛ェよ、つか俺で試してどうすンだよ。」
「ん?ふふ、そうだな。」

むに、と頬を摘まんだ手をそっと解いて、抱きかかえる様にして背中に腕を回す。
小太郎の肩に顔を埋めて、首の付け根にそっと痕を付ける。後で怒られそうだとは考えないことにした。

ふと時計を見ると、デジタル時計には0が4つ並んでいる。
小太郎の誕生日だ。

「…なァ、」
「うん?」
「おめでとう、誕生日。」
「…ありがとう。…嬉しい、とっても。」
「プレゼント、何が欲しい?」
「うん?んー、そうだなあ…。」

うとうとと頭を揺らしながら、抱きついていた小太郎がそっと離れる。
何だか妙に肌寒くなって、離すまいと強く抱き寄せると、目が濡れた小太郎と視線が重なった。
そのまま何も言わずにキスをして、ゆっくりと顔を覗き込む。

「…晋助が、欲しい。」
「え?」
「今までも、これからも、俺が一番に欲しいのは、晋助だけだよ。だから、」
「小太郎、」
「あ…、」

横になっていた躰を起こして、そのまま小太郎に覆い被さる。
同時に深くキスをして、薄い背中を掻き抱いた。

「小太郎の、誕生日だってのになァ…、」
「しんすけ?」
「こっちのはなし。…寝ぼけてたとか、無しだかンな。」
「うん?もう一度、ほっぺ、摘んでやろうか?」
「莫迦、…黙れよ、もう。」
「あ、しん…ん、…っ、、」


自分の名前を呼ぶ小太郎の口から一緒に溢れてくる嬌声を思う存分楽しんで、結局眠ったのは朝方だった。
起きると同時に思い切り頬を抓られた後、少し躊躇いがちに腕の中に飛び込んできた小太郎を思い切り抱き締める。

「おめでとう」と、「ありがとう」と。

そして何より「大好きだ」と伝えると、小太郎が嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ると、降り続いている雨も、ひりひりと痛む頬も、なんだか愛しく思える。


− ああ、駄目だ。小太郎の誕生日が、嬉しい。


優しい熱を抱き締めたまま、甘い陶酔に心を預けて、そのままベッドに倒れこむ。
小太郎が今日の俺と同じように笑ったのは、1ヶ月と少し後のことだった。



//おわり。




■2013/6/26 HappyBirthday!!

桂さん誕生日おめでとう!
なんだかんだで6年くらいずっと好きなんですがきっとこれからも相変わらずだいすきです!(晋ちゃんが)(桂くんを)(んん?)

今度は晋ちゃんの誕生日ですねがんばる…!
ここまで読んでくださった方ありがとうございました。

みつき


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