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■suger suger suger

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暑さがいよいよ酷くなった7月の終わり。
朝のニュースで、今日は猛暑日になると言っていた。

どうりで、と思う。昨日も今日も、そして一昨日も、何もかもが熱かった。
アスファルトの上を歩く足が焼けそうだと思うくらいに。

そんな日の図書館からの帰り道、駅の裏にあるドーナツ屋に立ち寄った。
全国のチェーン店のような店ではなく、駅の裏路地でそっと営業している小さな店だ。
店の少し手前、10メートル程の所に差し掛かると、小麦粉が揚がる甘い匂いが漂い始める。

高校に進学して、たまに図書館で勉強する自分を迎えに来てくれる晋助と一緒に見つけた、秘密の場所。

「ただいま。」
「おかえり。何、ドーナツ?」
「うん。久しぶりに買ったんだ。」
「ふぅん…、」

ドーナツを買って家に戻ると、既に帰宅していた晋助に出迎えられた。
今日は晋助のバイト終わりの時間と合わず、それぞれ別に帰ることになっていた。
七部袖の薄いシャツに部屋着のジーンズを着た晋助は、何だかとても眠そうだった。

それなのに、手元にあったドーナツの箱を見た途端、ぱっと表情を明るくしてドーナツの箱を覗き込んだ。
何を探しているのかすぐに分かってしまったので、小さく笑った。

「心配しなくても、ちゃんと買ってきたよ。」
「…ん、」

満足そうに晋助が頷いたので、ぷ、と小さく噴出すと、脇腹をむにっと抓られた。
くすぐったい。

晋助が探していたのは、砂糖のたっぷりかかったふわふわのドーナツだ。
白い砂糖と、ほんのり茶色い粗めの砂糖が振り掛けられている「それ」は、はっきり言ってかなり甘い。

ひとくち食べたときに口の中に広がる甘さの衝撃は、小さい頃に初めて飲んだカルピスの甘さに似ている。
子供が大好きな、一度食べるとやみつきになる味。

最初にこのドーナツ屋で買ったのは、ベーコンの入ったパイドーナツと、甘いシロップがかかった焼きドーナツ。
また食べたいとふたりで言って、2回目に買いに言ったときに見つけたこのドーナツは、それからふたりの定番メニューになった。
市販のものよりも甘いのに、口の中にはさっぱりとした余韻が残る。
普段、甘いものを口にしない晋助が唯一食べる甘いものだと言ってもいい。

「小太郎は、紅茶、飲む?」
「うん。晋助は珈琲にするのか?」
「いや、俺も紅茶にする。…食ったら、寝る。」
「夕飯までには起きるんだぞ。」
「分かってンよ、」

ガシガシと頭を掻きながら、晋助が台所に向かった。

穏やかな夕方。
ふたりだけの優しい時間。

手に持っていたドーナツの箱をことんと置いて、服を着替えるために寝室に向かった。





「いただきます。」

両手をぽん、とあわせて、小さく会釈をする。
食事の前は必ずするようにと、両親と先生から教わった。
晋助と一緒に過ごしてきた、小さい頃からの繰り返し。

自分の拳よりも大きいドーナツを両手で持って、あんぐりと口をあける。
行儀の良し悪しは考えない。折角の子供の時間なのだ。

ぱくりと一口噛み付くと、振りかけられた砂糖がふわりと口に付く。
ぽろぽろとこぼれる粗めの砂糖を指で掬うと、隣で同じようにドーナツを食べていた晋助にぺろりと指を舐められた。

「んー…、美味しいなあ。」
「ン。」

ぱくぱくもぐもぐと口を動かして、あっという間に一つ目を完食する。
しつこい甘さが残らないので、毎回何個でも食べてしまいそうになる。

「お前、くち、…はは、すっげェ、」
「ん?」
「真っ白、」

隣に居る晋助の指が頬に伸びて、そのまま唇の周りに触れる。
ざらりとした砂糖の感触と、少しゴツゴツした晋助の指の感触。
す、と砂糖を拭った指を目の前に出されたので、そのままぺろりと口に含んだ。

「行儀、悪ィな、」
「仕方が無いだろう?」

言いながら、既に両手はふたつめのドーナツに伸びている。
自分よりも少し遅れてひとつめを完食した晋助が、口の周りをぺろりと舐めた。

そのとき見えた赤い舌に、小さな欲を感じてしまった自分はどうかしているのかもしれない。

「また、買いに行こうぜ。」
「うん。」
「今度はふたりで6個くらい、いいだろ。」
「駄目だ。ドーナツで一日の食事を終わらせてはいけないぞ。4個までだ。」
「…まァ、どっちみち食えンなら、いいけど。」

砂糖まみれになった指先をぺろりと舐めた唇が、そのまま自分のくちびると重なった。

甘い、甘い。
こんなにも甘いのは、きっと砂糖だけのせいじゃない。

「うーん、やっぱり美味しいなあ。」
「そうだな。」

ひとつめよりも、ふたつめはしっかり味わって食べる。
ぱくぱくと口を動かして、ふたりしてあっという間に食べ終わってしまう。
食べ終わった後に重なった唇は、やっぱり甘い味がした。

― ふたつで、十分だ。

ドーナツを食べた後に重なる唇の甘さは、ふたつぶんのドーナツよりも遥かに甘い。
この気持ちを口に出すとその甘さが半減してしまうような気がするので、何も言わないようにしている。

この甘さを、ずっとずっと味わっていたい。
そう心の中で繰り返しながら、今度はいつドーナツをふたりで買いに行こうかと考えて、こっそり笑った。






「いただきます。」

小太郎が両手をぽん、とあわせて、小さく会釈をする。
食事の前は必ずするようにと、松陽先生と小太郎の両親から教わった。
ふたりでずっと一緒に過ごしてきた、小さい頃からの繰り返し。

自分の拳程の大きさのドーナツを片手で持って、あんぐりと口をあける。
普段こんな風に物を食べると何かと煩く言う小太郎が何も言わない。
何だか昔に戻ったような気がして、心の奥底がくすぐったくなる。

ぱくりと一口噛み付くと、振りかけられた砂糖がふわりと口に付く。
ぽろぽろとこぼれる粗めの砂糖を手の甲で拭うと、隣で同じようにドーナツを食べていた小太郎の指が目に入った。

白い砂糖に塗れた小太郎の指先。
そのままぺろりと舐めると、小太郎が綺麗に笑った。

「んー…、美味しいなあ。」
「ン。」

小太郎がぱくぱくと口を動かして、あっという間に一つ目を完食した。
市販のドーナツとは違って、ここのドーナツはしつこい甘さが残らない。
甘いものが苦手な俺でも食べることができるのは、正直今でも驚いている。

ふと小太郎を見ると、口の周りがすごいことになっていた。

「お前、くち、…はは、すっげェ、」
「ん?」
「真っ白、」

そっと指を伸ばして頬に触れる。
ざらりとした砂糖の感触と、柔らかい小太郎の唇の感触。
真っ白になった口の周りとそっと撫でて、小太郎の前に差し出すと、ぱくりと口に含まれた。

「行儀、悪ィな、」
「仕方が無いだろう?」

言いながら、既に小太郎の両手はふたつめのドーナツに伸びている。

― ほんと、ここのドーナツ、好きだよな。

指先に付いた砂糖をぺろりと舐める小太郎の赤い舌。
背筋がざわりと疼いたので、そっと視線を外した。
今はまだ、ドーナツの甘さを味わっていたい。

「また、買いに行こうぜ。」
「うん。」
「今度はふたりで6個くらい、いいだろ。」
「駄目だ。ドーナツで一日の食事を終わらせてはいけないぞ。4個までだ。」
「…まァ、どっちみち食えンなら、いいけど。」

砂糖まみれになった指先をぺろりと舐めて、そのまま小太郎にキスをした。

甘い、甘い。
こんなにも甘いのは、きっと砂糖だけのせいじゃない。

「うーん、やっぱり美味しいなあ。」
「そうだな。」

ひとつめよりも、ふたつめはしっかり味わって食べる。
ぱくぱくと口を動かして、ふたりしてあっという間に食べ終わった。

もう一度、と小太郎にキスをすると、小太郎の躰から力が抜けるのが分かる。

― もっと、食ったっていい。

このドーナツを食べるときは、小太郎が甘くなる。
重なる唇も、言葉も、仕草も、全部。

ドーナツを食べて甘くなる小太郎を、もっともっと味わっていたい。
この気持ちを口に出してしまうと折角の甘さが減ってしまう気がしてならないので、俺は小太郎が気づくまで、何も言わないことにする。


今度はいつドーナツをふたりで買いに行こうかと考えて、こっそり笑った。






//おしまい。


2013/7/11 掲載

それぞれがこっそり愛を育んでいるふたりを書いてみたかったのですがもっと修行します(苦)

3Z高桂なのでいつも以上に甘くなったような気がしますが不可抗力ということで。
ドーナツだけでここまで幸せになれるのってすごいなって思いました高桂愛!(作文)

ここまで読んでくださって有難うございました。
3Z高桂はなにしてても可愛いです…´v`*


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