◆小噺置き場◆
にゃんにゃんにゃー。(猫の日記念砂柾・甘)
2012/02/23 00:42
相変わらず柾木が偽物なのでご注意ください。
困った、とても困った。
酒で上昇した体温のせいでただでさえ汗ばんでいるのに、目の前の男は気にすることも、いや、気づきもせずに膝に乗り上げてくる。
「なぁ…すにゃはらぁ…」
とろんとした淡い瞳と上気した頬、酒に濡れた唇が紡ぐ言葉は、酔いのせいで舌がもつれているらしく、舌足らずだ。
すにゃはらは反則だろう…!!
目の前の男から視線を逸らし、俺は必死になって、憲法の前文を暗誦する。そうじゃないと気がぶっ飛んでしまいそうだ。
同じように暑いのか、細い金髪が汗で幾筋か額に張り付いている。思わずそれに手を伸ばして払ってやったら、気持ちよさそうに目を細めやがった。
だから、反則だっての、お前。
「おい、柾木」
「にゃんだよ、すにゃはらァ」
にゃんじゃねぇよ…!!
普段なら本能っていう熱の塊を抑え込んでる箍が酒のせいで外れかかっている。
服越しにもわかる熱を帯びた体を今すぐここで押し倒して喰らっちまいたい。無理とわかっていても、いや、わかっているからこそ、胃の腑から噴き出してくる熱情がある。
柾木は酒に強いはずだった。
違う、確かに強いのだ。そうそうは酔わない。しかし体質というか、例外があったらしい。――ワインとか。
さっきまで柾木が座っていたあたりに転がってるワインボトル。せっかくの宴会だから家からくすねてきたと偉そうにふんぞり返っていた二時間くらい前の朝桐を殴りに行きたくてたまらない。
こんな柾木を…いや、俺と柾木二人きりの時だったら大歓迎だというのに、朝桐も瀬下も桑村もいるこの状況で、こんなにやらしい生き物に変貌を遂げるなと言いたい。
…やらしいというか、なんで口調がそうなるんだ。どうして「な」行だけもつれるんだ。
「すにゃ…」
なんだか俺の胸元に鼻づらを擦りつけて懐いている、普段からは想像もつかない小動物のような柾木に息が荒くなるのを耐えるだけで精一杯だ。
可愛すぎるだろちきしょう。
ため息をつきながらなんとなく天井を仰ぎ見、俺は柾木の後頭部に手を回した。やわらかな髪を手の中でもてあそんでやるとかぷりと鎖骨を噛まれた感触がした。
……くそったれ。
本当に――困った。
そんな猫の日。
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