◆小噺置き場◆


どうしようもねぇ朝柾メリクリSS 〜2011〜
2011/12/24 22:55






「…君の瞳に乾杯」

コーラを片手に、爽やかなスマイル――恐らくそれは彼なりに考え、彼なりに作り上げた精一杯の決め顔なのだろう――を浮かべた朝桐真之輔に先の台詞を囁くように言われた時、柾木は手に持ったサイダーの缶を思わず握りつぶしかけました。
なんなのだろうかと、硬直しながら柾木は胡乱な表情で朝桐を見つめました。
いまどきハーレクイン小説でもお目にかかれないような、伝統文化財的ベタ台詞を、まさかこの自分が浴びせられるとは思いもよらない出来事だと、柾木は失神しかけました。

本当に何なのでしょう、先ほどからそうなのです。正確には朝桐が柾木のアパートにやってきたときから、ずっと。
まず、現われたときからして異常でした。
いつもは適当にガンガンとノックをして勝手に入ってくるのに、今日、12月24日に限ってはなぜだかインターホンを押したのです。当然インターホンを押す朝桐などという概念の無い柾木ですし、新聞は取ってないので勧誘はあっても集金はない。なにか注文した覚えも送られる覚えもないので宅配もない。
消去法という素晴らしい方法により柾木は無視、またの名を居留守と言う昔ながらの手を使ってスルーを決め込みました。もちろん面倒くさかったからです。それに目の前ではシチューを煮込んでいたため、そんなものに関わっている暇はありませんでした。
しかし何度も何度も、それはそれはしつこく、不審者が現われたのではと普通の人間ならいっそ恐怖するほど、インターホンは続きました。しかし柾木は普通の人間よりちょっとばかり気が短く凶暴であり、また凶犬でもあったため、がちっとコンロの火を最大限にとろ火にすると、足音も高く玄関へと向かいました。手に持ったままのお玉はもはや調理器具ではなく立派な凶器と化していました。
もともと美しい顔立ちの人間が怒ると、それはそれは恐ろしい形相になります。
例にもれず、柾木も秀麗な顔に何本かの青筋を立てて勢い良く玄関のドアを開けました。
途端。

ふわっと目の前が赤で染まりました。
視覚の後に襲ってきたのは嗅覚で、なんだかものすごくむせかえるような花の香りに、思わず柾木は呻きました。


――真紅の薔薇。

カスミソウなどの飾りもない、混じり気なしの真っ赤なバラの花束でした。
怒りも忘れてただただ困惑する柾木でしたが、ぴょこんと薔薇の花の向こうから顔を出した男にははっきりと見覚えがあります。

「メリークリスマス、柾木」

…ぞわっと背が震えました。胸はキュンとせず、ぞっとしました。作ったらしい低い声に柾木は気絶しそうになり、石像のように固まってしまった柾木を見た男――もうおわかりですね? そうです、朝桐です。彼は、そんな柾木の反応をただ驚いているだけと解釈し、ぽふんと柾木の胸に、大輪の薔薇の花束を押し付けてきたのでした。


それからは怒涛の攻勢でした。

とりあえずどうしようもなかったので花束を抱えた柾木が生けられるような花瓶を探していたら(といっても柾木の家に花瓶なんてないのですが)、いきなり耳元に顔を寄せられ、「今日もきれいだぜ」とささやかれました。

思わず戦いて逃げ出し、現実逃避を起こした脳が火にかけてあった鍋を思い出したあたりで朝桐もそれの存在に気づいたらしく、「美味そうだな」と嬉しそうに一言。それがいつもの朝桐だったので柾木がホッとしたのもつかの間、間髪いれず「お前の方が美味そうだけどな」とまっすぐに見つめながら言われ、柾木はシチューを頭からぶっかけたい衝動を必死に抑えねばなりませんでした。

以下。

「ケーキもあるのか? …あ、そうか、デザートはおまえか」

「きれいな薔薇だろ…? おまえにぴったりだと思って、買ってきたんだ。キスした後、こんな色なんだぜ…?」

「酒なんていらねえ、お前が酔わせてくれるんだろ…?」

エトセトラでございました。

柾木の頭の中はスパーキングでした。たぶんカメ●メ波とか、そんなんだせんじゃね?なんて笑ってしまうくらい、爆発していました。
料理の邪魔だからあっちへ行けと平素と変わらぬ口調で朝桐を追いやるのが精一杯で、その実膝ががくがく震えてしまいそうでした。
ナニコレ超怖い、助けて砂原、北条さん、瀬下。助けて。

兄貴分も相棒も朝桐の抑え役も、たぶんこんな朝桐を見たら匙を投げて他人のふりをするに違いありません。柾木だってそうしたいです。でも当事者だから逃げられません。


そして冒頭の台詞がとどめとなり、柾木は缶を持っていた手とは別の拳を反射的に繰り出していました。

「うおっ!」

ばしっ、と皮膚同士がぶつかる音。朝桐が軽く受け止めるであろうことは想定内でしたが、柾木にはそれ以上反撃する元気はありませんでした。今までのやりとりで、すべて精気を吸い取られていたのです、御愁傷様です。

「ななな、どうしたんだね柾木!! いきなり!」

焦った朝桐はいつもの朝桐で、柾木は安堵しかけ、そういえば最前一度それに引っ掛かったことを思い出し、再び表情をこわばらせました。

「いきなりどうしたじゃねえヨ!! なんなんだよテメー気持ち悪ぃ!!」
「なっ…カッコイイ朝桐様に気持ち悪いとは何事だ!」
「気持ち悪いやつに気持ち悪いっつって何が悪いっ。来た時からワケわかんねーことしたり言ったり…どういう了見だ!」

朝桐は必死の様子でしたが、柾木はもっと必死でした。ぶっちゃけ半泣きでした。大好きな大将が、そして恋人がおかしくなったら、そりゃ誰だってそうなります。柾木も例外ではありません。見逃してあげましょう。よしよし。
柾木は気付いていませんでしたが、うっすらと涙目で朝桐を見つめているわけで、そんな視線を向けられた方は欲情…ではなく、困惑するのみです。
そしてそれは、そのまま朝桐の口から出てきました。
「か、カッコよくなかったか?」
「はぁ!?」
「いや……だってよ、これに…」
唇を尖らせ、不審そうな顔で朝桐が取り出したのは一冊の本です。しかも漫画ではなさそうです。
怪訝に思いつつもそれを手に取った柾木は、タイトルを見て――破顔しました。
「おっ! な、なんだねどうしたね! 可愛い顔だなオイ!!」
「あ? バカ言ってんじゃねー」
可愛い可愛いと朝桐が言うのは本心からなのですが、柾木はいつも流します。不満そうな朝桐を無視し、柾木はくつくつと喉を鳴らしました。

『聖夜に絶対に成功する法則25条』

25という数字はどこからきたのでしょう。25日かイヴだからという適当さからくるものと思われますが、とりあえずそれはどうでもいいので置いておきます。

可愛いやつ!!!

柾木は目の前の朝桐と言う名の可愛いバカさ加減が愛しくて恋しくてたまらなくなりました。
しゃらんと光る金髪をかき上げながら、俯いた顔は、見た者が赤面するほどに幸福な微笑みに満ちていました。

「ど、どしたよ柾木。それ返せよ」

恥ずかしいんだぞ。と怒ったような顔をする朝桐は、きっと照れているのでしょう。
タネがバレてしまったからか、もうあの気持ち悪い朝桐ではありません。正真正銘、柾木の好きな、いつもの朝桐です。
「…くくっ」
まったく、悔しいけれど朝桐の作戦は大成功です。
初めて過ごす二人きりのクリスマスをどうにか成功させようと頑張ってくれたと言う事実。
柾木の氷を簡単に蕩かしてしまう熱っぽい情。

まったく、困ったぜ。
緩む頬を持て余しながら柾木は気恥ずかしさを振り払おうと、さっき少し潰してしまった缶を朝桐に突き出し、「乾杯」と口をとがらせるように笑いました。
不思議そうにしていた朝桐も、とにもかくにも柾木の機嫌が直ったらしいと嬉しそうに笑うと、コーラの缶をカツンとサイダーの缶にぶつけました。



飲みほして、落ちた静寂はあたたかでした。
…と、ここまではよかったのですが、ちょっとした問題が起こりました。

ほどよく甘ったるい、なめらかなクリームみたいな空気は、柾木の唇すらすべらかにしてしまったのです。


「なんかヨ」
「あ?」
「今日はオメーになんでもさせてやりてー気分」


その発言の数秒後、ニヤリと笑った朝桐の、「ある時にだけ」目にする類の笑みを見てから、柾木は己の失言に気付きました。

青ざめ、次いで真っ赤になった頬はとてもおいしそうでした。当然朝桐の目にも、どんなごちそうよりも美味しそうに見えたことは言うまでもありません。



数時間後――いやいや、そんなに時間は必要じゃないですね。数十分後、まずは、と風呂場に連れ込まれた柾木がどんな無体を働かれたか。
移動した先のベッドでどんな痴態を繰り広げる羽目になったかは――。


翌日、輝く朝日に照らされた寝顔が疲れきっていて、腫れぼったそうな瞼が印象的だった、という事実から、ご想像いただきたく存じます。



どっとはらい。



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朝ちゃんが読んでた本は実在しません、あしからずw



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