【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢8


「で、ご用件は何でしょう。」
「あの・・・因幡さんの事、ちょっといいな、って思ってて、さ。」
「はぁ。」
「俺と付き合ってみない?」
「すみません、忙しいので。」

半年も経てば奇怪な人間も出てくる。
私と付き合ってみたいとな。
呼び出されて校舎裏まで来たけど、用件聞くまで考えもしなかったわ。
あ、でもコレって青春の王道だよね、考えてみれば。
・・・半年前の私なら盛り上がってたんだろーなー。。。

『えらく疲れとるのう。』

帰宅後、自室で通信機越しにコエンマと定期連絡。

「なんか最近、追うより襲われる方が多くなってきた気がするんだけど。」

下校時ならまだしも、登校時なぞに来られた日には。
回り道して態々人気の無いとこまで誘き出したり、Uターンして始末してからもう一回登校し直したり。
朝っぱらからゲンナリだ。

『うむ、こちらの筋では着々と名を上げておるからの。』

上げてどーする。

『まだまだ序の口じゃ。気を引き締めておかんと、その内ひょっこり手強いのが出てくるぞ。』
「そんなモンひょっこり出られてたまるかーーーっ!!」
『なんじゃ、元気そうではないか。安心安心、ではまたな。』

あ゙!あっさり一方的に切りやがった・・・!!
正式な霊界探偵の選定はどうなってるんだ!まさか私という存在をいい事に、後回しにしてるんじゃないだろーな。
・・・あり得る。もぉぉぉぉっっ!!





「どうしたの、ルナ。この煮付け、味が悪かったかしら・・・?」

晩御飯を食べていると、母さんが少しばかり心配そうに私を見ているのに気付いた。

「え、なんで?美味しいよ?」
「難しい顔して食べてるからだよ。」

横から蔵馬の突っ込みが入る。
あー・・・そう言えばちょっと悶々と考え込んでたかも。コエンマの馬鹿野郎。

「ごめん、ちょっと考え事してたー」

あははっと誤魔化して根菜の煮付けに手を伸ばし、「うん、美味しい」と心からの笑顔を浮かべる。
ほっとした笑みを浮かべる母さんに、申し訳ない事したな、ともう一度心中でコエンマを殴ってから箸を進めた。

「そんなに悩むんなら、あんなにあっさり断らなきゃ良かったのに。」

同じく箸を動かしながら何気なく言う蔵馬に、母さんと二人で頭にクエスチョンマークを浮かべる。

「今日ルナ、男子に告白されたんだよ。」

まぁ、と顔を輝かせる母さんとは対照的に、うげ、と顔を歪ませる私。

「見てたんなら助けなさいよ。」
「助けるって・・・絡まれてたわけでもないのに。」
「似たよーなもんでしょー。」

ジト目で蔵馬を見やる私に、母さんが表情を曇らせる。

「嫌な相手だったの?」
「ううん、全然知らない相手。」

けろっと答えたら「隣のクラスの子だよ。」と呆れたように蔵馬が補足してくれた。

「へぇ〜詳しいね、秀。」
「ルナが無頓着なだけだろ。」
「そんな事無いよー!秀がモテてるの知ってるもん。」
「そんなの聞いた事が無いよ。」
「ほら、秀のが無頓着!」

「そんな事無い」「いーやそんな事ある」等と言い合いを始めた私達をにこにこ眺めていた母さんがふと口を開く。

「でも秀一、中学に上がって少ししてからかしら・・・笑う事が多くなったものね。きっとモテてるわよ。」
「・・・笑う事が多くなった?」

思わず、というように反復した蔵馬に母さんは穏やかに微笑む。

「ええ、良いお友達か・・・ガールフレンドでも出来たのかと期待してたんだけど。」

最後は少し悪戯っぽく言った母さんに、思わず私と蔵馬は顔を見合わせた。
中学に入って少し、というと、私がこの家にやってきた頃だ。
・・・良いお友達かガールフレンド。

「無いな。」
「うん、無い無い。」

思わず二人で否定する。
「あら、残念。」とさほど残念そうでもなく言った母さんは「でもまぁ・・・」と私達を交互に見ながら続けた。

「従兄弟も結婚出来るから問題ないかしらね。」

にっこり笑った母さんに今度は二人して咽た。

「ぐっ・・・おちゃ!おちゃ!」
「ゲッホ・・・ごほごほっ・・・!」

涙を浮かべつつお茶を一気飲みする私より一足早く立ち直った蔵馬が母さんに抗議する。

「冗談やめてよ母さん・・・」
「此処に孫が増えたら楽しいわねって思ったのよ。」
「げほっ・・・もう暫く私達二人で我慢してクダサイ。きっと秀が素敵なお嫁さん連れてきてくれるから。」
「ルナが良い旦那さん連れてきたらいいだろ・・・」
「私はこの三人が楽しいから言ったのに・・・」
「「もう母さんは黙ってて。」」

渾身の突っ込みだったのに「相変わらず息ぴったり。」なんてふわふわ微笑む母さんにふわふわ流されてしまった。





「・・・にしても蔵馬の変化に気付いてるなんて、流石は母親だねー・・・」

今日は戦闘行為も無かったのに無性に疲れた。
夕飯後、食器を片付けて蔵馬の部屋でゴーロゴロ休憩しながら、ふと呟く。
蔵馬も勉強机の椅子に座って、読んでるのか読んでないのかわかんないような本を開きながら返事した。

「ルナが無駄に笑かすからだろ。」
「うわ、人の所為にした。ひきょーものー。」
「・・・まぁ、そんなに笑ってるつもりも・・・もう少し言えば、笑ってなかったつもりも無かったんだけどな。」

蔵馬は片肘を机について、私は相変わらず床でゴロゴロしながら、お互いやる気無く話す。

「んー・・・でも初めて会った時の『秀二クン』はやっぱどっか違和感あったよ。妖気云々抜きにしても。」
「そのネタも懐かしいな・・・今だったら遠慮なく殴ってるのに。」
「蔵馬の辞書に遠慮なんて言葉があったなんて!」
「・・・今から修行するか?実戦形式で。」
「ごめんごめん、私に対して以外はちゃんと遠慮あるよね、良くも悪くも。」
「どっちにしても何処か引っかかる言い方だな・・・」

一つ、溜息を落とす蔵馬。

「だって学校では皆に遠慮って言うか・・・正直、誰にも気許してないでしょ?」
「気安く絡まれたら面倒じゃないか。」
「折角の青春が勿体無ーい。」
「そう言うルナだって、最近は前みたいに青春青春言わなくなった癖に。」
「まぁ・・・これだけ人外と関わってたら、ね。アンタの言う『面倒』もわかる気はするし。」
「枯れたな。」
「枯れたくなーい!・・・でも否定出来なーい。。。」

ぐで、と床に突っ伏した私に、蔵馬がクスッと笑んだ気配がした。

「ま、正式な霊界探偵が決まってくれれば、青春とやらを謳歌出来るんじゃないか、ルナは。」
「本当それだよねー・・・コエンマの野郎・・・」

夕方のコエンマを思い出して一瞬眉間に皺が浮かぶが、何か引っかかったので顔を上げて蔵馬を見やる。

「・・・蔵馬は?」
「え?」

まるっきり他人事の口調で言う蔵馬に違和感を覚えたのだ。

「私がお役御免になったら、蔵馬も暇になるでしょ?鬱陶しい奴らは霊界探偵が始末してくれるんだろうし。」
「それは人間界の話。妖怪の世界はまた別に色々あるんだよ。」
「ぇええ何それ。蔵馬も青春しようよー。」
「オレは・・・」

一度、言葉を切った蔵馬は少しだけ視線を彷徨わせてから私を見て・・・薄く微笑んだ。

「良い彼氏見つけろよ、ルナ。」

答えになってない、とか。私じゃなくてアンタは、とか。
言いたい事はいっぱいあった筈なのに喉が詰まった。
蔵馬が、寂しいような眩しいものを見るような、何とも言えない儚げな表情をするから。
なんで、とも聞けず、ただ何処か胸を締め付けられるような感覚に陥った私は、返事をする事も無く、ゴロン、と寝返りをうったのだった。

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