蔵馬夢9
「ヴィス・ファランクッ!」
ごがっ!!
中学も2年に上がったが、相変わらず妖怪は出るし霊界探偵は決まらない。
ただ私の方はお陰様でレベルアップしているらしく、大抵の妖怪は呪力で強化した素手で何とか出来るようになっていた。
トンファーも、よっぽど相手が武器を持ってるとかで無い限り出番は無く、もっぱら足の筋トレ要員と化している。
代わりと言っては何だが、4月のクラス替えで少々変わった事があった。
蔵馬とは相変わらず同じクラスだったのだが―――
「喜多嶋麻弥、か・・・」
「あ、やっぱり!あの子なんか変だよねっ?」
「ルナの方が変だよ」と要らぬ突っ込みを入れつつ蔵馬が答える。
因みに今は下校途中、人気の無い住宅街なので誰かに聞かれる心配はまず無い。
「アレは変じゃなくて『霊力が高い』と言うんだ。」
「じゃあ普通の人間?」
「・・・普通より霊力の高い人間。」
話を聞いていたのか、と言わんばかりに半眼で見てくる蔵馬に、「そーじゃなくて!」と反論する。
「人外の何かがカモフラージュしてるわけではないんだよね、という事を言いたかったの。」
「そういう意味では確かに普通の人間だな。」
「それは一安心。」
なんか変だあの子変だて身構えてたよーと笑ったが、蔵馬は真顔のままだ。
「逆だよ。」
「へ?」
「霊力の高い人間は一部の妖怪にとって恰好の餌になる。特に戦闘能力の無い者は、鴨が葱背負って食べられるのを待ってるようなものだ。」
「駄目じゃん!!」
「だから安心してる場合じゃないって言ってるだろ。」
真剣な蔵馬に、その内容に、私まで真顔になってくる。
「じゃあ近付いて親友ポジションゲットして・・・」
「それも駄目。」
「張り付いて警護はやっぱやり過ぎ?」
「そうじゃない。ルナの場合は霊力、と言っていいのかわからないけど、とにかく力を持つ者だ。」
ふんふん頷く。
「霊力の高い人間のそばにルナやオレみたいな『力』を持つ存在が居たら、守るどころか霊力が上がって、逆に妖怪から目を付けられやすくなる。」
「へぇ・・・え、じゃあ、付かず離れず見守ってろ、と・・・?」
「・・・まぁ、それが妥当、かな。」
「うわぁ面倒臭い!」
思わず頭を抱えて空を仰いだ私に「そうでもないよ」と蔵馬のフォローが入る。
「ルナは今まで通り、妖気や邪気を感知して片付けていればいい。」
要は襲ってくる妖怪が居なければ済む話なんだから、と続けられ、それでも片っ端から殲滅かぁ・・・と項垂れた私の頭にポン、と蔵馬の手が乗っかった。
「ルナ一人じゃ大変だろうけど、オレも居るんだから。大丈夫。」
苦笑しながら慰めてくれる蔵馬に、明日は雷雨だな、なんて失礼な事を考えた。
**********
蔵馬ーっ!早速ピンチピンチ!
「あのね、ルナちゃん・・・あ、ルナちゃんって呼んでもいい?」
「いいよー私も麻弥ちゃんって呼ぶし。」
「ありがとう!」
蔵馬との下校会議からまだ幾日も経っていない放課後。
私は早速問題の彼女からお呼び出しをくらっていた。教室がすぐそこに見える階段脇だけど。
ああどうしよう、お友達の階段1,2歩上っちゃった気がする。
「付かず離れず」作戦がー!
そんな私の心の叫びを知る由も無い麻弥ちゃんは、少しばかり緊張した面持ちで口を開いた。
「あ、それでね、あの・・・ルナちゃんと南野くんって付き合ってるの?」
「そんなバナナ。」
「え?」
「あいやゴッホン。・・・私と秀はただの従兄弟だけど?」
「本当に?従兄弟だって結婚できるんだよ?ルナちゃんは南野くんの事なんとも思ってないの?」
母さんと同じ事言うのはやめてくれぃ。
「うーん・・・頼りになるとは思ってるけど。」
主に修行と戦闘面で。とは流石に言わない。言えない。
「麻弥ちゃんは秀の事が好きなんだ?」
「ぇっ、あのそ、の、っ・・・!」
おお、顔が一気に真っ赤になった。
元々可愛らしい顔立ちしてるし、こんな顔で告白されたらまずイチコロだな。羨ましいぞ男子!って、秀か。
秀は・・・蔵馬は、どんな反応するのかな・・・。
って私関係無いじゃんよ。何悶々と考え込んでるんだ。
「あの、ルナちゃん!」
「ハイ!」
突然大声を出した麻弥ちゃんにつられて私もイイお返事をしてしまった。
「言わないでね、絶対!お願いだからっ」
頬が赤いまま真剣に頼んでくる麻弥ちゃんに、ふ、と微笑が浮かぶ。
「言わないよー。人の恋路を邪魔する奴は、ってね。」
みるみる笑顔になる麻弥ちゃんが微笑ましい。
「良かったー思い切って聞いてみて!ルナちゃんって素敵なお友達も出来たし!」
・・・微笑ましいけど、頬が一瞬引き攣ったのは見逃して欲しい。
あああ麻弥ちゃんってお友達の間に階段が無いタイプなのね。1,2歩どころか一瞬で頂上だった・・・。
「あ、いっけない、もう帰らなきゃ!私ね、超常現象とか大好きなの!ルナちゃんも好きでしょ?また沢山お話しようね!」
今日はありがとう、また明日!なんて去って行く麻弥タイフーン。
・・・いつ私が超常現象好きだなぞと申しましたか。
霊感の所為で惹かれてる、とか・・・?
今度こそ引き攣った顔を隠そうともしない私の視線の先で教室の扉が開いて蔵馬が出てきた。
「ルナ?話が終わったなら帰るよ。」
「・・・くら・・・じゃなくて秀。麻弥ちゃんがイチコロでタイフーンで超常現象だから、下校会議を要請する。」
「・・・よくわからないって事はわかった。ほら、ルナの鞄。」
「ありがと・・・」
でも明日から大変なのは蔵馬の方じゃないかな、なんて思いつつ、「付かず離れず」作戦がどう考えても遂行不可能になった事を報告すべく、蔵馬と共に帰路についた。
勿論、色恋云々は伏せて。馬に蹴られて死んじゃうからね。