【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢4


「ってわけでね秀二くん。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・秀一くん。」
「はい。あとは貴女の処遇ですね。」

ちょっと霊界行ってる間に秀一くんのノリが悪くなった!

因みに霊界からはあやめに引き摺ってきて貰ってなんとか無事肉体に帰還したわけだけど、コエンマの言ってた通りやっぱり体は動かないので秀一くんのベッドは占拠したままだ。
おまけに外は超暗い。何時頃だろ。眠くないのかな秀一くん。

「その前に一つ、いいですか?」
「なんじゃらほい。」
「・・・。聞く限り、霊界の中でもトップシークレット扱いの案件だと思うんですけど。」
「みたいだねー。べらべら吹聴するな、って念押しされた。」
「・・・現在進行形でやらかしてませんか?」
「そこはほら!君と私の仲じゃないか!」
「・・・・・・・・・・・・。」

・・・わかった、真面目に話す。話すからその綺麗なオメメで圧力かけてくるのヤメテ。

「とまぁ冗談はさて置き。」
「そうして下さい。」

ちょっと霊界行ってる間に秀一くんが冷たくなった。。。

「私ね、この家の子になる事を推奨されてんのよ。」
「えっ・・・」

だよね、「え、ふざけんな?」だよね。

「どうにも霊界がねぇ、この家に落ちた事に必然性を感じてるらしくて。いやちゃんと『敷地内に落ちたんじゃなくて親切な子に拾って貰った』って主張はしたんだよ?それでも、なんて言うんだろ、まさかの伝説の『あの御方』ご登場にビビりまくっちゃってるっぽくて。」
「それは・・・そうでしょうね・・・・・・」

―――ふむ。『そうでしょうね』ね・・・

「で、それだと必然的に周囲の人達の記憶とか記録とか操作しないといけない。つまり本当の私を知る人が霊界にしか居なくなっちゃう。」

それは流石に寂しいじゃない?と苦笑いしたら、すっごく困った顔された。ですよねー勝手に巻き込むんじゃねぇよって話だよねー。
でも私の勘が正しければコレ、あながち彼にとっても不利益にはならないと・・・思うんだけど・・・。

「それが一つ。もう一つは、のたれ死んでたかもしんないのに親切にもベッドにまで寝かせてくれた恩人に嘘吐いて騙したくない。」

これらは正直な私の気持ちで、霊界に対する我侭。
そして次のはほとんど霊界の都合。

「まだあってね、これが一番厄介かと思うんだけど、一応霊界の世話になる身として仕事手伝えって事になって。」

ピク、と秀一くんが反応を示す。

「霊界探偵ってのがあって、要は人間界で悪さする妖怪何とかしろって話なんだけど、私は霊界の命令に従うつもりは無いし、けど降りかかる火の粉はちょっと嫌よね、って事で、『霊界探偵代行』。今正式な霊界探偵居ないんだって。だからそれが決まるまでの繋ぎって話。」

いつの間にか秀一くんの目は前髪に隠れていた。

「それで動く時に、家の中に理解者が居ないととっても不便な事になるでしょ?・・・ってとこまでが、霊界で話した事。」

ふ、と気付いたように秀一くんの顔が上がる。

「ここからは霊界に話してないし、今後も話す気は無い完全オフレコ話なんだけど。」

じっと見つめてくる翡翠を私も見つめ返し、一つ、息を吐いて決定的な一言を紡ぐ。

「秀一くん―――妖怪でしょ。」

今度こそ、秀一くんの目が見開かれた。

「完全な妖怪ではないと見受けるけど、霊界で牢屋の前横切った時に感じた気配で、秀一くんに感じてた違和感に気付いてさ。」

『かあさま』の事も全く知らなかったわけでもなさそうだし?と付け加えると、秀一くんの目が、ス、と細められる。

「・・・凄まじい感知能力ですね。霊界の使者も気付かなかったのに。」
「うん、霊界の誰も気付いてないよ。あれでよく『統治』とか偉そーな事言えるよねぇ。」

ケラケラ笑う私に対して秀一くんは無表情。
警戒心が思いっきり出ちゃってるよ秀一クン。

「・・・何故、霊界には伏せたんです?霊界探偵を承諾しながら。妖怪は危険な存在だと教わりませんでしたか?」

言いながら秀一くんの手が私の首に伸びる。

「お察しの通り、今のオレは完全な妖怪じゃあない。だからこそ不完全な今を気付かれた以上、オレにとって貴女は酷く危険な存在だ。」

首が、ゆっくり絞められていく。

「・・・怖くないのか?」

少し息苦しくなっても何の反応も示さない私に、秀一くんが訝しげな顔をした。

「言、ったでしょ。恩人だ、て。」

笑って言った私に、戸惑った秀一くんの手が少し緩む。

「霊界の、調べ、では、ケホッ、南野家はごく普通の、母子家庭。調べられても何も、出ない程大人しく、コホッ、生活してる妖怪、に危険を感じろと、言われても、」

へらっ、と笑ったら、完全に手が外された。
気まずそうに横を向いた秀一くんが低く呟く。

「・・・それでも、状況次第では牙を剥く事もある。」

ゲーーーッホゲホゴッホンっ、と息を整え少し涙目になりながらも、笑みを崩す気にはなれなかった。

「うん、だから判断するのは事情を聞いてからでも遅くはないかな、と。」
「それまでに危害を加えられるという可能性は?」
「考えてなかった!」

思わず、といった体でこちらを向いた秀一くんは、まじまじと私を眺めた後、ふかーくながーい溜息をついた。失敬な!

「それに私がこの家の世話になる提案をとりあえず承諾したのも、秀一くんには全部話しておきたいってゴネたのも、霊界探偵代行とやらを引き受けたのも、全部何か秀一くんの利になるかな、って思っての事だし。」

霊界に恩売るとか、隠したい事があるなら灯台下暗しにもなるだろうし、と続けると、何処か呆れたような秀一くんが口を開く。

「貴女はオレを『拾ってくれた恩人』って言いますけど、別に親切心ではないですからね。」
「放っといた方が逆に不審がられる?」
「・・・考えているのかいないのかハッキリしてほしいな。」
「滅茶苦茶考えてるじゃん!」

失礼にもまた溜息をついた秀一くんへの文句はぐっと我慢し、何より聞いておかねばならない本題を切り出す。

「・・・で、私はこの家の子になってもいいの・・・?」

流石に口調もちょっぴし弱気になる。現実問題、先住者としてはやっぱり「ふざけんな」事案だと思うし。
ここで断られたら、まぁ霊界が住処の提供はしてくれるだろうが、人間界では一人ぼっちスタートだ。
結局の所、恩人だ何だと言いながら、何でも話せそうな秀一くんに依存しているだけなんだと思う。
目が覚めて、何もわからない時に話し相手になってくれた人。私と同じようにワケありの人。
―――寂しさを紛らわせてくれる人。

ふ、と一息ついた秀一くんが口を開くのを、少しばかり緊張しながら見つめる。

「・・・ここまでお互いに知って知られて、今更放り出す方がオレにとっては危険だ。」
「あ、別に秀一くんの事は脅しに使おうと思ったわけでは決してなくてね、」
「わかってるよ。」

あ。笑ってくれた―――

「オレも母さんを騙してる。他人の事は言えないんだ。ここでのルナの設定はどうなる予定?」
「あ、ぇえとね、」

―――受け入れて貰えた。

「両親が他界して、叔母である秀一くんのお母さんのお世話になる事になって、」

自分で思ってたより心細かったらしい。嬉しくてちょっぴし涙が出そうになったのは内緒内緒。

「でも遺産ガッポリ設定でお金はいくらでも霊界から出るから安心して!」

秀一くんの顔が引き攣った気がしたけど、気のせい気のせい。

ま、母さんの負担が増えないのは安心材料かな、なんて呟いた秀一くんは、ちょっとスペース空けてくれる?等と言いながらベッドに潜り込んできた。

「おーい秀一くん。」
「なに?流石にオレもそろそろ寝たいんだけど。」

確かに元々暗かった上に霊界での一部始終も話して、結構夜更けにはなってると思う。
正直私も、安心した事も相俟ってかなり眠くはなってきてた。ん、だけど。

「ナチュラルに女性が寝てる所に入ってくるのはどうかと思うんだ。」
「今はお互い子供だし、『オレと君の仲』なんでしょう?狭さは我慢して。ソファも無いし。」
「お互い、って事は実は相当年食ってるな・・・」
「そりゃあ元は完全な妖怪だったからね。」

言葉通り、外見年齢には不釣合いな笑みを浮かべた秀一くんは「寝物語でもしようか」と言って今迄の事を話してくれた。

「くらま、かぁ・・・」

半分以上寝惚けた私に、そう、と返事をしながら秀一くん、もとい、蔵馬が微笑った気配を感じた。

「誰も居ない時はそっちで呼んで貰えると嬉しいかな。」

―――ああ、この人も「本当の自分」を知っててくれる人が居なかったんだ。

そう考えると自然と微笑がこぼれ、「りょーかーい・・・」と答えた私は次の瞬間には寝息をたてていた。
「変な拾い物しちゃったな」なんて呟きながらも優しく顔にかかる髪を払ってくれる蔵馬には気付く事も無く。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -