【アキさん】蔵馬夢小説 | ナノ
蔵馬夢3



「・・・この扉の向こうだよ。」

何でもかんでもとりあえずでかい。うざいぐらいでかい。等と思っていたこれまでの霊界の景色の中でも一際にでかい扉の前でぼたんがそぅっと振り向いた。
なるほど。確かに何か「でかい」存在感を感じる。勿論物量的な意味では無い、なんとなくって奴だ。
・・・まぁこんだけでかい扉が必要なんだから物量的にもでかいのかもしんないけど。コエンマの部屋の側面側扉は普通サイズだったし。

ぼたんは一緒に中に入るわけではないらしく、私に扉を示すとそっと脇に移動した。・・・ものっ凄い不安そーな顔で。

「ありがと。」

大丈夫だよ、という意味も込めて苦笑すると、今度は酷く微妙な表情になった。
表情がくるくる変わる子は可愛いって言うけど、確かに可愛らしい子だー・・・と、思った所でふと視線の高低差に意識がいく。
・・・そうか。私今12歳児だった。
そりゃ自分がオロオロしてんのに12歳児の方が落ち着いてて、しかも逆に励まされたとなりゃ、びみょーな気分にもなるわ。

思い当たってまた思わずくすりと苦笑を零してから扉に向かった。


――― ギィィィィィィ・・・


外見を裏切らない重々しい音を立ててゆっくり扉が開く。

ってか両開きの癖に自動ドアかよ!!

内心でどーでもいいとは思いつつも全力で突っ込んで扉の奥へと歩みを進めた。
薄暗く馬鹿でかい部屋。奥にベランダのようなものだろうか、外の景色が広がる一角があり、そこからぼんやりと光が入ってきている。

そして、その横。
正しく巨人と呼ぶに相応しい人影。
私なぞ蟻んこの如くぷちっと踏み潰されてしまいそうな巨大さに、流石に足が止まった。と同時に人影が動く。
思わず片足を引いて身構えた―――瞬間。


――― ズゥ、ン・・・・・・


軽い地響きを立てて人影が跪いた。


・・・・・・・・・は?


知らずぽかん、と開けていた口を認識した、更に次の瞬間。

ぐんっ、と後ろ向きに物凄い負荷がかかった。
慌てて体勢を整え―――ようとして、肝心の体が無い事に気付く。
いや、その表現は正しくない。確かに体は先刻の位置から微塵も動かずその場に立っている。
ただ、意識だけが酷く後退したというか・・・視界が魚眼レンズのような。
目の前の出来事の筈なのにどこか遠くから見ているような気分になる。幽体離脱とはまた全然違った感覚。

―――・・・なんだコレ。

呟いた筈が声にならない。ぇええええ。今度はなんだーぁ。思ってたら今度は視界が浮いた。てゆか体が浮いた。
四肢の感覚は無きに等しいから特段びびる事もないけど。いやでも。

―――・・・浮いた。浮いた!!

巨人が口を開く。

「・・・如何なご用件でしょうか。」

―――いやソレこっちの台詞!台詞取らないで!

『・・・我に用件は無い。』

―――・・・喋った。喋った!!

ぇ、コレ私の声だよね?私喋ってないよね?けど喋ってるよね??え?え??

『ただこの娘が時空の狭間に迷い込んでいたのでな。気まぐれに拾って此処へ放り込んだだけだ。』

いや気まぐれで放らないで下さい。・・・って、ぇ。
私迷子だったの?しかもジクウのハザマ??・・・・・・なんてスケールのでかい迷子!!

『特等な待遇を用意する必要は無い。が必要最低限、不自由が無い程度には計らってやれ。折角気まぐれに拾った命だ。』

 気 ま ぐ れ で 拾 わ れ た ん で す か 私 の 生 命 。

「・・・混沌の母たる御方のお言葉、しかと承りました。」

―――混沌の母・・・?どっかで聞いたようなフレーズだな。。。

最早他人事とばかりに傍観モードに入ろうとしたら、今度は視界が暗転した。

―――・・・失神でもしたかな?

・・・なんて考えてる失神者が居るんだろうか。
人は暗闇を恐れると言うけれど、こう何も無く清々しいまでに真っ黒だと恐れようもない。気がする。
・・・もうこのまんま寝ちゃおかな。寝たら死ぬのかしら。雪山かよ。

・・・一人ノリツッコミが一層空しい。
けど・・・やっぱり闇を恐れるのは当たり前にある感情だと思うし、死の可能性も著しく高い。てゆか現在進行形で仮死状態なわけだし。
それなのに恐怖感や不安感を一切感じないのは何故だろう。
諦め?いやまだそこまで人生捨ててない。
悟り?何か悟る程生きてねぇよ!!
そんなんじゃなくて、もっとこう・・・何か、温かく包まれているような・・・揺り篭の中のような。

何処かぼんやりしつつ首を捻っていると、視界の端に小さな光が過ぎった。・・・気がした。
そちらに目を向けようとしたのが先か、点々とした光が一気に暗闇に広がったのが先か。
一瞬で理解した。

―――宇宙だ。

・・・空気は?

『今のお前はただの意識体だ。空気など必要とせぬ。』

・・・返事きた。

『直ぐにお前の意識は霊体に戻る。聞きたい事があるなら今のうちだ。』

アンタダレ。本来のあたしは?これからどーしたらいいの。

『――総てのものの母。混沌の海。名など有りて無きもの。』

思い出した!昔読んだ小説の、なんか絶対的な人だ!

『人に非ず。時空に限りなし。世界が違えば我を認知する存在、せざる存在、無限にあろう。』

はー・・・流石スケールのでかいお話で。じゃあ「おかあさま」とでも呼んどきゃいいのかな。

『気安いが面白い。何かあれば呼べ。気が向いたら出向いてやろう。』

・・・かあさまが出向いたら世界が滅びるんじゃなかったっけ。

『お前次第だ。世界が無に帰すもお前が無に帰すも――制御して世界の一部を無に帰すも。』

あ。もしかして私、あの小説の魔術が使えたり?

『カオスワーズは全ての存在の内に。全ては己次第。忘れるな。』

あ、なんか話終わりそう。結局元の私はー!?

『時空の狭間に落ちる事は即ち生命の終末を意味する。別の時空とはいえ運良く拾った生命だ、精々謳歌するが良い。』





 パチッ。

と目が覚めたら視界がコエンマのドアップだった。

「・・・何オトメの寝込み襲おうとしてんのよ。」
「おそッ・・・!!そんなわけあるかっ!!」
「この程度で動揺しちゃって、ほんとに千年も生きてんの〜?」

半眼になりつつ寝かされていたベッドから起き上がろうと・・・起き、上が、ろうと・・・・・・
・・・起きられない。
まったく最近の若い者はっとかなんとかぶつくさ言っていたコエンマが私の様子に気付いた。

「ああ、話は親父から聞いたが、まさか『あの御方』が実在したとはのう・・・ただの伝説じゃと思っとったわい。」
「じゃなくて、なんで私は起き上がれないの。」
「そりゃあ、あんなとんでもない存在の媒介者になったのだ、疲弊して当たり前じゃろう。」

何をわかりきった事を、と言わんばかりのコエンマだが、こっちは今それを聞いて「へー媒介者。」な状態だ。
霊界の常識は人間界の非常識、と。――って、そう言えば。

「このまんま疲弊して肉体に戻れなくて幽霊になっちゃうとか無いよね?」
「そうそう、それであまり時間も無いのだ。肉体に戻れば、まぁ一晩ほど眠れば動けるようにはなるじゃろうが。」
「今すぐ帰して。」

ぽんっと手を打ってどこか暢気に言うコエンマを睨む。

「まぁ待て、霊界としての今後の方針を説明せねばならん。ちゃちゃっと話すから心して聞けよ。」

寧ろ貴様が心してちゃちゃっと話せだ。

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